コラム

遺言書の方式と重要性

2020.07.15[遺言相続]




【高まる遺言の重要性】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
緊急事態宣言は解除され、
私たちは、少しずつ通常の日常生活に戻り始めていますが、
新型コロナウイルスの新規感染者数はまた徐々に増え始めており、
なかなか収束の兆しは見えません。

4月15日、
奇しくも日弁連では毎年、「遺言の日」と制定されているこの日、
厚生労働省クラスター班によって、
コロナウイルス感染による死亡者数の算定が発表されました。
その内容は、
不要不急などの外出自粛などをまったくとらなかった場合、
日本での死亡者数は約42万人にのぼるだろう
という、
非常に衝撃的なものでした。
※朝日新聞記事
「行動制限なしなら42万人死亡 クラスター班の教授試算」

近年、遺言の重要性や必要性は注目を集めてきましたが、
今回のコロナウイルス感染拡大によって
その関心がより高まる可能性は大きく、
遺言書の方式や保管の方法について知っておくことは
大切と考えます。


【3つの遺言書の方式】

遺言書には、

 ✓自筆証書遺言
 ✓公正証書遺言
 ✓秘密証書遺言


の3つの方式があります。
それぞれの方式は、以下の表のような違いがあります。


※公正証書の証人は、公証役場にて手配することもできます(有料)。 
 自分で証人を用意する場合は、
 証人予定者についての情報を記載した書面を
 公証役場に提出します。
※秘密証書遺言は、
 方式不備で無効になるリスクが高いことから、
 採用件数が非常に少なく、
 実質的にとられている方式は、
 自筆証書遺言か公正証書遺言のいずれかです。






【もうひとつの保管制度が誕生】


今まで、遺言書を保管できる者は、

 ✓遺言者
 ✓遺言者からの受任者
 ✓公証役場


とされていましたが、

「法務局における遺言書の保管等に関する法律」
(遺言書保管法)
という新しい法律が成立し、

7月10日より
自筆証書遺言は、
法務局でも遺言書を保管してもらえる

制度がスタートしました。

<保管申請>
法務局で、自筆証書遺言を保管してもらうためには、
遺言者が、

①遺言者の住所地
or
②遺言者の本籍地or遺言者所有の不動産の所在地

を管轄する遺言書保管所に自分で出頭して、
遺言書の保管申請を行います。
※保管申請をするにあたっては、
 電話やインターネットで予約をとることができます。


<保管制度にかかる手数料>
保管申請、また保管後の閲覧や証明書の交付といった請求には、
以下のような手数料が発生します。

法務局「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧」より

※遺言者が保管申請をするためには、遺言者本人の確認書類が必要です。

<保管対象の遺言書>
保管対象となる遺言書は、
「自筆証書遺言」方式の遺言書で、
封がされていない、法務省令で定める様式に従って作成されたものに限られます。

<保管管理者>
遺言書の保管事務は、
法務大臣の指定する法務局(遺言書保管所)において、
遺言書保管官として指定された法務事務官がおこないます。
(遺言書原本の保管、遺言書に係る情報(画像など)の管理など)

<遺言書の閲覧や保管の撤回>
遺言者は、
1度保管した遺言書を閲覧したり、
遺言書の保管を撤回することができます。
それ以外の者は、遺言者が生存中の間は、
遺言書の閲覧などを行うことはできません。
※遺言者の死後、
 相続人が法務局で遺言書の閲覧をした場合、
 ほかの相続人にも、遺言書が保管されていることが
 通知される仕組みになっています。



私の考える、
この保管制度のメリットとデメリットを、
以下のとおりあげてみましたので、ご参考ください。

<メリット>
①スムーズな手続き
公正証書遺言は、作成依頼や、証人立会いなど、
最低でも2度、またはそれ以上、
公証役場への訪問が必要と考えられます。
これに対して、遺言書保管所への出頭・申請は最小限で済みます。
(特に不備がなければ、訪問も1度で手続きを完了できます。)
また、保管するにあたって、検認が必要ありません
※行政書士など、専門家に
 公正証書遺言の手続きを依頼する場合、
 訪問回数を調整することは可能です。


また保管申請時には、遺言書保管官が、
遺言書が法務省令に定める様式にのっとっているかどうか確認

してくれますので、
内容不備による遺言書の無効を避けることができ、
改ざんや偽造の心配もありません

②証人がいらない
公正証書遺言の場合は、
2人以上の証人の立会いが必要であるのに対して、
自筆証書遺言書保管は、証人の立会いは不要です。

③費用があまりかからない
公正証書遺言の場合、
5,000円以上の手数料がかかりますが、
自筆証書遺言書保管にかかる申請手数料は3,900円と、
公正証書遺言ほどはかかりません。

<デメリット>
①遺言者の作業負担
公正証書遺言の場合は、
公証役場において、公証人に遺言の内容を口頭で伝え、
公証人がそれを文案にしてくれますが、
自筆証書遺言書保管の場合は、
遺言者が自分で遺言書を作成しなければなりません
自書できない場合は、この制度を利用することが難しい
と言えます。

また、法務局では、遺言書の形式的な確認はしてもらえますが、
その内容に関する個別の相談はできないため、
知識が少ない状態で作成された遺言書に至っては、
遺言者が望む通りの効果が発生しなかったり、
トラブルに発展するおそれ
があります。

こういったリスクを避けるため、
行政書士
をはじめとする専門家に
遺言書ドラフトの作成を依頼
する
などして、不備のない遺言書を作成することが大切です。


②遺言保管所への出頭が必須
自筆証書遺言書保管は、
必ず遺言者本人が、
遺言書保管所に行って申請などの手続きをしなければならない

ことも、忘れてはなりません。
現在、この制度における代理申請は認められておらず
遺言書保管官が出張するというルールも予定されていません

③被相続人への負担
相続人または受遺者は、
遺言執行や遺言書の内容を確かめるために、
遺言書の保管有無の照会をしなければなりません
もしも被相続人や受遺者が、
遺言書の存在を知らないのであれば、
遺言内容と異なる相続手続がなされるおそれあります。
また、遺言者の自宅だけでなく、
法務局に保管申請をしていないかを確認するなど、
遺言書の調査にも時間がかかる可能性もあります。

これらのリスクを避けるためには、
遺言者が、続人や受遺者、遺言執行者などに、
遺言書が遺言保管所に保管されていることを伝えておく
か、
保管の事実などを記したエンディングノートを、
死後に発見されやすい場所に置いておく
などの方法をとることも、有効な手段のひとつです


【1番安全確実な遺言方式は?】


それぞれの方式の特徴をふまえて、
私がもっともおすすめする遺言の方式は、

公正証書遺言

です。

公正証書遺言は、
公証人が、遺言書の形式や内容を十分にチェックしてもらえ
さらに、作成された遺言書は証人による確認してもらえるという、
非常に手厚いサポートが特徴です。
また、原本は公証役場で保管してもらえるため、
後々遺産相続のトラブルになる可能性が少ない
最も安全確実な遺言方式といえます。
※遺言書は、行政書士をはじめとする専門家が、
 遺言者の趣旨に沿って原案を作り、
 公証役場と打ち合わせをして
 作成されることが多いです。(別途報酬が発生します)


なお、公証役場の遺言検索システムを利用すれば、
お亡くなりになった方が生前、公正証書遺言を作ったかどうかが
すぐに確認できます。

公正証書遺言作成の基本手数料は、
相続する財産価額によって変わります。
日本公証人連合会ホームページでは次のように公開されています。
日本公証人連合会ホームページより)



【遺言と一緒に考えたい対応】

遺言書を作成するときには、
遺言執行者を指定することができます。
遺言執行者を指定しておくことによって、
遺言内容をよりスムーズに進めることができます。

遺言執行者は、
未成年者・破産者以外であれば、誰でも就任できます
相続人も就任できますが、
そのとき、事情によっては、
他の相続人とのトラブルに発展する可能性
も考えられます。

相続人同士のトラブルを避ける方法のひとつとして、
行政書士などの専門家を遺言執行者に指定するなど、
第三者に執行を任せることとすれば、
安心して遺言の執行手続きを進められるでしょう。


相続制度は2018年、
およそ40年ぶりに法制の大改正がなされ、
ほかのルールも続々とスタートしています。

WINDS行政書士事務所は、
新制度をご紹介するとともに、
皆さまの想いに寄り添った対応をしていくこと、
大切なミッションとして引き続き取り組むことを、
お約束します。