【会社法改正】社外取締役の設置
2021.12.22[契約]
【会社法改正の影響】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
2021年3月1日、改正会社法が施行され、
コーポレートガバナンスの強化をねらいとした
改正ルールが多く反映されたことは
記憶に新しいところです。
※法務省:会社法の改正
多くの改正ルールで、
今回私がピックアップしたいのが、
社外取締役
の存在についてです。
法改正によって、
上場会社は社外取締役の設置が
義務付けとなっています。
現在の上場企業さまはもちろん、
今後上場を目指す企業さまにとっても、
社外取締役の設置が重要なタスク
となることは、間違いありません。
【社外取締役の存在意義】
社外取締役とは、ネーミングのとおり、
社内ではなく、
社外にいる取締役の方々をいいます。
取締役というポジションは通常、
社内で昇進した方の就任が多いですが、
取締役が社内の者だけなると、
利害関係やしがらみ
というも、少なくありません。
これらがもし、
取締役の意見に反映されると、
公正な組織とはいえません。
社外取締役は、
内部の利害関係やしがらみにとらわれず、
社外から客観的に経営状況などを
見ることができる立場として
取締役会などの場で意見を述べたり、
事業者に不祥事が発覚した際の
第三者委員会を設置すべきかどうかの判断
も、適切におこなうすることができます。
具体的には、
MBO(マネジメント・バイ・アウト)や
親子会社間での取引
といったときに
社外取締役の存在や活用が期待されており、
企業の経営の透明性や健全性を図るうえで
重要な役割を果たしている存在
と言えるでしょう。
社外取締役になるためには、
以下の要件をすべて満たす
ことが必要です。
※上場会社の社外取締役に就任する際には、
取引所(東京証券取引所など)の独立性要件
を満たす必要もあります。
⇒JPX:独立役員の確保に係る実務上の留意事項
そもそも、社外取締役は、
株式会社の業務を執行すると、
社外取締役としての地位が失われる
存在です。
会社法第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
十五 社外取締役 株式会社の取締役であって、次に掲げる要件のいずれにも該当するものをいう。
イ 当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役(株式会社の第三百六十三条第一項各号に掲げる取締役及び当該株式会社の業務を執行したその他の取締役をいう。以下同じ。)若しくは執行役又は支配人その他の使用人(以下「業務執行取締役等」という。)でなく、かつ、その就任の前十年間当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役等であったことがないこと。
これが、法改正後、
次の条文にある条件を
満たす場合にかぎって、
社外取締役に業務執行を委託できる
ようになりました。
会社法第348条の2 株式会社(指名委員会等設置会社を除く。)が社外取締役を置いている場合において、当該株式会社と取締役との利益が相反する状況にあるとき、その他取締役が当該株式会社の業務を執行することにより株主の利益を損なうおそれがあるときは、当該株式会社は、その都度、取締役の決定(取締役会設置会社にあっては、取締役会の決議)によって、当該株式会社の業務を執行することを社外取締役に委託することができる。
【社外取締役の設置】
改正前の会社法では、
上場会社などは原則、
社外取締役の設置が規定されていたものの、
株主総会で理由を説明すれば、
設置しなくてもよいことになっていました。
ちなみに、上場会社とは、
以下の要件をすべて満たす会社をいいます。
これが、改正後では、
上場会社などによる社外取締役設置が義務化されました。
会社法第327条の2 監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)であって金融商品取引法第二十四条第一項の規定によりその発行する株式について有価証券報告書を内閣総理大臣に提出しなければならないものは、社外取締役を置かなければならない。
※改正前も、東証一部上場企業の99.9%が
社外取締役を設置しています。
【社外取締役の「責任限定契約」】
会社法上の取締役の責任は、
過失責任
(自分にあやまちや不注意がないことを
明白に証明できれば、その責任は問われない)
と規定されています。
会社法第429条 役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
2 次の各号に掲げる者が、当該各号に定める行為をしたときも、前項と同様とする。ただし、その者が当該行為をすることについて注意を怠らなかったことを証明したときは、この限りでない。
※取締役が自分のために直接取引した場合は、
無過失責任が問われます。
社外取締役は、
業務執行取締役でないかぎりは、
その責任範囲を明確にするため、
就任に伴って、
株式会社との間で責任限定契約を締結する
ことが多いです。
責任限定契約は、
役員が負う損害賠償責任について、
一定の限度額までに限定する契約です。
責任限定契約によって、
社外取締役は
自身への責任負担や追及を気にせず、
第三者的な観点で会社の業務執行を監督
外部から優秀なマンパワーを確保
経営陣に委縮せず自分の意見を主張
することができます。
こうしたメリットから、
社外取締役や役員を派遣されるときの
株主側からの提案
また、
非上場会社が
VC(ベンチャーキャピタル)から
出資を受けるときの
社外取締役の受け入れ条件
として、
この契約が締結される場面もあります。
この契約を
会社と締結することができるのは、
次の役員に限定されています。
※業務執行取締役
(=常勤取締役や代表取締役)は、
責任限定契約を締結できません。
一般的に、社外取締役は、
業務執行に関与しない立場ではありますが、
「業務執行の関与」
というフィルターに通して
責任限定契約を締結すべきか
を、検討した方がよい
ことにも、注意したいところです。
【責任限定契約の締結手続き】
会社と社外取締役などの役員との間で
責任限定契約を締結するためには、
次の2つのステップを踏んで進めます。
STEP1⃣責任上限額の規定ジャッジ
役員の損害賠償責任限度額は、
自由に決められるわけではなく、
会社法上、次のように定義されています。
この定義がある限り、
責任限定契約を締結しても、
その責任範囲を自由に決められる
というわけではありません。
そのため、会社は、
損害賠償責任の上限額を
定款で定めるかどうか
を判断しなければなりません。
責任上限額を①にするか②にするかは、
会社の状況によります。
たとえば、
社内で不祥事や損失が発生した場合、
株主は、役員に責任追及する立場を考えれば、
上記②の限度額より高い上限額を
定款で定めてもらったほうがよいと
考えるのが自然と考えられます。
これに対して、
VCなどの投資家から、
社外取締役を受け入れる場合、
社外取締役を派遣する株主は、
低い責任上限額の設定を望むことになり、
定款で責任上限額を定めるときに
何らかの説明が求められる
ことになるでしょう。
STEP2⃣責任上限額の規定
STEP1⃣で会社が
役員の責任上限額を定款で定める
ことを判断した場合は、
定款を変更し、
責任限定契約についての規定を
設けなければなりません。
また、
社外取締役と締結する責任限定契約
においては、
定款には
責任限度額を記載した条項を定めます。
※損害賠償責任の上限額を
「定款で定めない場合」は、
責任上限額は
「法令で定める額」となります。
【定款変更の手続き】
定款を変更をするためには、
株主総会での特別決議
変更登記
をおこないます。
株主総会の特別決議は、
議決権を行使できる株主の議決権の過半数
を有する株主が「出席」
&
出席株主の議決権の3分の2以上の「賛成」
が必要です。
※出席や賛成の割合を別途定めている場合は、
その割合にしたがいます。
社外取締役と
責任限定契約を締結することができる旨の
定款の変更にしたがって、
定款変更の効力が生じた日から2週間以内に
法人登記の変更をおこないます。
上場を予定している会社さまや
投資家から出資を受けることになる会社は、
社外取締役を設置する場面は
多く想定されます。
会社の機関のひとつとして
社外取締役の設置は
法律にしたがって
手続きをしなければなりません。
社外取締役を受け入れる場合、
責任限定契約の締結も
重要な検討課題となります。
社外取締役の設置が未経験
という会社さま。
WINDS行政書士事務所は、
企業法務に詳しい専門家として、
最新の法律ルールや専門知識をもって
事業者さま契約書の作成やリーガルチェック、
法務手続きを承ります。
手続きについても迷われるようでしたら、
是非、ご相談、ご活用ください。