【民法改正】成人年齢の引き下げ
2022.01.19[日々のあれこれ]
【「オトナの定義」が変わる】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
今からおよそ4年前の2018年6月。
日常生活や契約に関わる法律である
民法が改正され、
契約ごとに関わるさまざまなルールが
2020年4月より、変更されています。
※契約に関する大きなルール変更については、
以前のコラムでもご紹介しています。
⇒【民法改正】連帯保証人
⇒【民法改正】契約不適合責任
⇒【民法改正】消滅時効の期間
⇒【民法改正】利用規約などの「定型約款」
これらに続いて、いよいよこの春、
法律上の成人年齢が引き下げとなります。
私たちそれぞれが、
立派なオトナか、そうでないか
を区別する、される、重要な定義が、
これから変わることになるのです。
成人年齢が変わることによる
メリットやデメリットや
私たちへの影響は、
わかっているようでわからない
そんな皆さまも
多いのではないでしょうか。
【民法改正の内容】
民法の改正によって、
2022年4月1日から
日本における
成人年齢は、
20歳から18歳に2歳引き下げ
となります。
日本での成人年齢は、
明治時代から20歳と
一貫して定義されてきましたが、
見直しがかかるのは
じつにおよそ140年ぶりとなります。
成人年齢の見直しは、
これまでも何度か議題にあがってきました。
なかでも、次の2つの要素が
改正へのステップとして大きいでしょう。
①日本近代化に伴う法改正
国民投票投票権
公職選挙法における選挙権は
対象年齢は
18歳に引き下げられてきました。
これらの法改正が
成人年齢の定義を再検討する
大きなきっかけとなっています。
※国民投票とは、
憲法改正をするかどうかを
国民が投票参加できる手続きです。
②グローバルな成人年齢の調整
世界各国を成人年齢を調べてみると、
20歳以下であることが多く、
国際視点や価値観の変化を考慮して
世界と足並みをそろえよう
という考え方が大きくなりました。
<法務省:2008年8月現在の国別選挙権・成人年齢>
【成人年齢引き下げのメリット】
成人年齢は、
次の2つの要件を備えた年齢と言えます。
成人年齢が18歳に変わることで、
当然、
今まで20歳以上でないとできなかったことが、
18歳になったその日から
親や保護者の同意を得なくてもできる
ようになります。
具体的な行為が、次のようなものです。
①自動車免許の取得
7.5トン未満の自動車運転免許を取得できます。
<JAF:運転できる自動車の種類>
②契約の締結
未成年者が契約主体となるためには、
親や保護者の同意が必要ですが、
新成人は、
親の同意がなくても、自分の意志で、
契約にサインすることができます。
③国家資格・免許の取得
公認会計士や行政書士などの国家資格や
医師、薬剤師などの免許を取ることができます。
④親権からの離脱
生活形式の変更(1人暮らしなど)や
進路の決定、就職などを、
親の同意なく、
自分の意志で決めることができます。
⑤性別変更手続き
成人が性自認が異なる場合は、
性別取扱変更の審判を受ける
ことができるようになります。
※性自認に関しては、
職場や学校などでの偏見や不当な扱い、
契約上の不利などが
身近な人権問題となっています。
⑥結婚
これまでの婚姻可能年齢は、
男性18歳、女性16歳
だったところ、
男女ともに18歳に統一
されました。
4月からは18歳に達すれば、
親権者の同意書は不要
となり、
夫婦2人の意思で
婚姻届を市区町村に提出することで、
結婚ができます。
ほとんどの子どもは
高校までは進学していることもあり、
高校卒業を迎える18歳までは
社会的・経済的に未熟と考えられ、
男女ともに高校卒業程度である
18歳以上に年齢が引き上げられます。
⑦選挙権の獲得
公職選挙法上の選挙権年齢や、
憲法改正のための国民投票の投票権年齢は、
すでに18歳と定められています。
国政における重要なジャッジにも
関われるようにするため、
国は18歳、19歳でも、
成人と取り扱う政策が進められてきました。
18歳や19歳の皆さまが
「政治に参加できること、
一人前の大人として扱うことが適当であろう」
「自由な意思をリスペクトしなければ」
「もっと積極的に社会に参加してほしい」
という考え方や想いのもとに、
引き下げられた成人年齢で
選挙や投票する権利が与えられるようになります。
【18~19歳成人でもNGな行為】
4月から
18歳や19歳の皆さまが新成人となっても、
すべての行為が許されるわけではありません。
具体的には、
次のような行為は民法改正前と同様、
20歳以上になってからでないと認められません。
①飲酒・喫煙
依存性や健康上のリスクを考え、
許されるのは20歳になってからです。
②ギャンブル
競馬、競輪、ボートレース、オートレース
などにおける投票券が購入できるのは、
20歳になってからです。
③中大型自動車運転免許の取得
車両総重量7.5.トン以上の
大型・中型の自動車運転免許を取得できるのは
20歳・21際以上からとなります。
④養子を迎える
血縁関係がない者や婚外子などと
親子関係になる手続きとして、
養子縁組があります。
養親になるということの
養子を育て、面倒をみるという
重大な責任を考慮され、
引き続き、20歳未満である場合は
養子の親(=養親)にはなれません。
⑤被選挙権の獲得
選ぶ「選挙権」とはちがって、
都道府県や市区町村の代表としての
議員や知事といったポジションに
選ばれる「被選挙権」の対象年齢は、
次のように定められています。
※地方公共団体の長と議会議員の選挙権は、
3カ月以上その自治体に住んでいなければ
与えられません。(地方自治法第18条)
※未成年者がおこなう法律行為については
以前のコラムでもご紹介しています。
⇒こちら
【18~19歳新成人保護者の注目ポイント】
改正ルールが適用される3か月後は
あっという間にやってきます。
4月に18歳や19歳となる皆さまは
未成年者(制限行能力者)から
新成人(行為能力者)になる
のです。
その時を迎える前後から
保護者の皆さまが注意すべきことを
ピックアップしてみました。
①成人としての区別
次の誕生日に該当するお子さまの場合は、
社会的に成人と取り扱われます。
3つの年齢を持つ皆さまが
一気に新成人となり、
成人人口も例年より倍増しますね。
新成人として認められることにも
それぞれ感想も違うかもしれませんが、
混乱のないようにしたいものです。
②法的責任と負担
一般的に未成年者は、
知識量や判断力が未熟と考えられています。
この状態のまま、
未成年者が自分の意志だけで取引をすると
取引相手もダメージを受ける場面も想定されます。
そのようなことがないよう、
未成年者が法律行為をするには、
親権者のようなその法定代理人の同意が必要
と定められています。(民法第5条)
さらに、
契約当事者の一方が未成年者であれば、
親の同意を得なかったという条件で
取消権を行使することができます。
取消権を行使して契約を取り消すことで、
契約違反やトラブルで発生する
法的ダメージを負わずに済み、
親権者も未成年者を守ってあげられます。
しかし、新成人になれば、
この取消権が使えなくなってしまいます。
取消権が使えないので、
交わした契約に対して、
自分自身で責任を取らなければならない
ということになるのです。
※内容によっては、
未成年者でも取り消せない契約もあります。
契約や消費者トラブルに巻き込まれないように
日ごろからお子さまと、
契約知識や検討方法などを話してみる
といいですね。
※人気アニメ「東京リベンジャーズ」
とのコラボレーションで、
特設サイトが公開されています。
https://www.gov-online.go.jp/tokusyu/seinen_18/index.html
③ライフイベントの重複
18歳の新成人は、高校3年生となります。
もし、改正ルール適用のタイミングで
2023年1月の成人式に参加することになれば、
この時期、
ほとんどの高校3年生が集中しているであろう
受験勉強や就職活動とバッティングし、
新成人として発生する
さまざまなタスクにも直面
しなければなりません。
そうすると、
心身の負担
コロナウイルスなどの感染リスク
コスト負担(成人式費用、進学・受験費用)
といった現実面での心配ごとも予想できます。
気になる成人式開催時期は、
各自治体によってさまざまです。
年齢別に開催場所を分けて合同式とする
自治体もありますが、
現時点では、従来どおり、
20歳を参加対象とする方が多い傾向です。
※日本経済新聞の記事
※三重県伊賀市の成人式
④養育時期
お子さまの養育費については
「成人まで払ってあげる」としている
ご家庭や、離婚した配偶者さま
も多いのではないかと思います。
そうすると、
お子さまが20歳まで受け取れるはずの養育費を
受け取れなくなる可能性
も少なくはありません。
ただ、そもそも養育費は、
子どもが未成熟で経済的な自立が期待できない
からこそ、支払われるべきものです。
そのため、
成人年齢が18歳になったからといって、
養育費の支払いも18歳でストップ!
という考え方は無理がある
と考えることができます。
それでも、
養育費についての取り決めをする場合は、
「支払いは20歳の3月までね!」
「面倒見るのは大学卒業までだよ!」
「20歳になったら半額は負担してほしい!」
と具体的な期限などを決めておくのも
モヤモヤも解消される方法といえます。
⑤相続の参加
未成年者が法律行為をする場合には、
単独ではできず、
親権者がその法律行為を代理しなければなりません。
たとえば、相続発生後におこなわれる
遺産分割協議も、この法律行為にあたります。
しかし、遺産分割協議は
親権者も子どもと一緒に協議に参加する
という点で、
ほかの法律行為とは少し毛色が変わります。
たとえば、
父、母、未成年の子の3人家族のうち、
一方の親が遺言なしに亡くなり、
不動産のように
きれいな分配がむずかしい相続財産について
話し合いが必要になったとします。
相続人は、のこされた家族2人となり、
遺産分割協議のテーブルにつくわけですが、
子どもの代理行為という点を考えると、
正当な協議ができなくなります。
この場合、未成年者の権利を守るため、
特別代理人の選任を家庭裁判所へ申し立てます。
※特別代理人は、
行政書士や弁護士などの専門家のほか、
親族の中から選任することもできます。
18歳以上の者が新成人となった場合、
この特別代理人を選任しなくても
遺産分割協議に参加できます。
一見、メリットのようにも感じますが、
新成人が相続の仕組みや法ルールを熟知し、
スムーズに手続きを進めることは難しい
と考えます。
また、不動産のように、
面積や構造上の分割方法や
新成人名義にする適切性の判断
も難航することも大いに想定されます。
このような場合は、
新成人の判断や考えを尊重しつつ
相続人同士で入念に意識合わせするほか、
セカンドオピニオンとして、
行政書士のような専門家のアドバイス
を受けながら相続分の調整を進めるのも、
有効です。
【今後の新成人の皆さまに大きな期待】
2022年4月から、立派な大人の仲間入りです。
これからいろいろな自由を得られる一方、
それと同じくらい、
法律や仕組みに対する
判断や責任にせまられます。
私が成人であった頃と比べると、
新成人となる皆さまは
コロナ禍などの大きな危機に
現在も立ち向かっていて、
強い意志とたくましさを備えていると感じます。
これからどんな困難を前にしても
ご自身の特徴や価値を存分に発揮し
きっと大活躍されることでしょう。
そんなお子さまの巣立ちを前にして、
セカンドライフステージを意識される
親世代の皆さまも増えていくかもしれません。
この成人年齢の引き下げが、
すべての世代の皆さまにとって
明るく良い方向に向かうこと
また新成人のこれからのご活躍を、
WINDS行政書士事務所も願っております。