【似てる?違う?】遺贈と死因贈与
2022.06.29[遺言相続]
【引き継がせたい財産の方法】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
信頼するあの人に、自分の財産を渡したい。
人がこのように想うシチュエーションとして、
代表的にあげられるのが、相続です。
相続は、
被相続人の死後、法律にしたがって、
相続権を持つ人が
その相続する順番や割合に応じて
財産を受け継ぐものです。
この、一般的な相続ルールに準じる方法
としてあげられるのが、
今回ご紹介する
遺贈
と
死因贈与
です。
どちらも、
その人に財産がある場合、
その人の死をきっかけに、
ほかの誰かにその財産が移転する
制度ですが、
両方とも、はっきりした特徴がある
ことをご存じでしょうか。
財産を引き継がせる行為において、
相続とともに
2つの方法の特徴をおさえながら
検討していくことは大切です。
【遺贈とは】
遺贈とは、
遺言者が遺言をすることによって
遺言者の死後、財産を特定の方に渡す
ものです。
一般的に、相続財産は、
遺言書がない限り
被相続人の配偶者や子供、親族などしか
引き継ぐことができません。
(法定相続)
その遺言書がなく、
法定相続で決められた分配方法に
異議を持つ法定相続人がいる場合や
見直す必要性が考えられる場合は
相続人同士が話し合って
遺産の分け方を話し合います。
(遺産分割協議)
これに対して、遺贈は、
本人(遺言者)が
別の誰か(受遺者)に
自分の財産を渡したい意志があり
あらかじめそのことを遺言すれば
法定相続によらないで
別の誰かに財産を渡すことができます。
この場合、
「誰に」「何を」「どれくらい」渡すかを
決定して遺言書に書きます。
私が考える
遺贈のメリットとデメリットをあげてみました。
<メリット>
①相手の同意がいらない
また、遺贈は遺言に基づく行為です。
遺言は
本人の一方的な意思でできる
(単独行為)
ため、
誰にも知られずに
受遺者を遺言書で指定することができます。
②撤回しやすい
遺言書を作成したけれど、
考えが変わった場合や少し変えたい場合、
受遺者の同意はいらず、
新たに遺言書を作りさえすれば、
前の遺言内容を撤回できます。
③不動産移転のコストパフォーマンス
対象財産が不動産の場合
遺贈による所有権移転登記は
相続人全員の同意なしにおこなえ、
手間がかかりません。
また、受遺者が相続人である場合は
課税が少なくて済みます。
(登録免許税:0.4%、不動産取得税:非課税)
※国税庁:登録免許税の税額表
<デメリット>
①遺言者の希望がかなわない可能性
遺言は、遺言者の単独行為ゆえに、
相続人や受遺者の意思に関係なくおこなえます
が、財産というのは、人によっては
プラスのもの(預貯金、不動産、株式、金品)
もあれば、
マイナスのもの(借金、ローン)
もあります。
遺産の中に、
受遺者にとっては意図しないものや
望まないものも含まれている場合、
受遺者は相続放棄をするなどのアクションをし、
遺言者の死後は、
遺言者の理想とは違う結果となるかもしれません。
ちなみに、
相続人や受遺者が
相続開始があったことを知った日から3か月以内
に
裁判所に申述し、
裁判所が受理すれば、
相続放棄が認められ、
遺産を引き継がなくて済みます。(民法第939条)
②法的無効の可能性
法律のルールに従わない遺贈は無効
となってしまいます。
たとえば、
遺言は、誰もが確認しやすいように
遺言書という書面として残すことが重要で、
そのスタイルも
自分で記載したもの(自筆証書遺言)
公証役場で認証を受けるもの(公正証書遺言)
があります。
前者の場合は、
法律に則って作らないとただの紙切れに終わる
リスクがあります。
さらに、
遺言者の死後に裁判所がおこなう
検認をおこなわないと、
遺言書通りの手続きができなかったり
5万円以下の過料がかかってしまいます。
※裁判所:遺言書の検認
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
※遺言書の種類については、
以前のコラムで詳しくご紹介しています。
⇒こちら
【死因贈与とは】
死因贈与は、
財産を持つ本人(贈与者)が
死亡時に効力が生じる
贈与契約のひとつで、遺言に準じる制度です。
贈与者と財産をあげると決めた相手(受贈者)
とで、生前に契約を結び、
贈与者が死亡後に受贈者に財産が渡ります。
法律における贈与の成立条件は
ある財産を
無償で相手方に与える意思を表示し
相手方が受諾すること
となっています。(民法第549条)
死因贈与の最大の特徴は、
贈与者と受贈者がお互い
「あげる」「もらう」と合意がなされる契約
であることです。
私が考える
死因贈与のメリットとデメリット
をあげてみました。
<メリット>
①贈与者の願いがかなう
契約にしたがって、
贈与者は事前に受贈者に対して
贈与したい財産の内容や贈与の理由など、
自分の意思や要望をしっかり伝える
ことができます。
また、
「私に万が一のことがあったら、
そのときはこの財産をあげる。
その代わり、生前のお世話をよろしくね」
といった、
負担付き死因贈与の契約スタイル
をとることもできます。
②確実な財産移転
死因贈与は合意が求められる契約
であることから、
受贈者は事前に
財産の種類や数を把握することができ、
死後のスムーズな財産移転の実行が見込めます。
③自由な形式
遺言は書面にする必要があり、
法定ルールに沿っていないと
無効となってしまいます。
対して、死因贈与は、
形式が自由であるため、
好きな時好きなように好きな方法で
決められ、口頭でも成立し得ます。
また、
贈与者の死後は
裁判所の検認もいりません。
<デメリット>
①契約の不成立
死因贈与では
当事者同士の合意が大前提です。
そのため、契約する前に、
死因贈与について
きちんと話し合わなくてはなりません。
もし、
受贈者が贈与に承諾しなければ
不成立となってしまいます。
②死後のトラブル
形式にとらわれない死因贈与は、
口頭でも成立し得る反面、
贈与者と受贈者との間で
「伝えた」「聞いていない」
などの行き違いの発生
さらには贈与者の死後、
受贈者と相続人との間の争いのおそれ
もあります。
また
書面があったとしても、
当事者の直筆のサイン(=署名)や捺印
がなければ、真正性を疑われかねません。
③負担付きの場合の撤回困難
死因贈与は
遺言に準じる制度であり、
撤回することもできますが、
条件によっては
簡単に撤回できないことがあります。
たとえば、
負担付き死因贈与とした場合
受贈者が贈与者の条件を忠実に守り
履行していれば、
贈与者はよほどの理由がない限り、
撤回することは難しいでしょう。
④コストパフォーマンス
死因贈与の対象財産が不動産の場合、
登記にかかるコストと手間が大きい
と考えられます。
死因贈与は相続ではないことから、
受贈者の立場に関係なく、
高い税率で納税が課せられます。
(登録免許税2.0%、不動産取得税4.0%)
また、
名義変更にあたっては、
相続人全員の同意を得なければなりません。
※国税庁:登録免許税の税額表
【遺贈と死因贈与は同じ?違う?】
遺贈と死因贈与は、
具体的にどのような違いがあるでしょうか。
実は共通点も多い反面、
明確な違いもあります。
<共通点>
①特定の相手に財産を渡せる
財産を渡したい相手をあらかじめ決め、
自分の財産を引き継いでもらうことができる
のが、最大の共通点と言えます。
その財産の持ち主が亡くなると、
遺贈なら、指定された相続人か受遺者
死因贈与なら、受贈者
が財産を受け取ることになります。
②相続税がかかる
遺贈も死因贈与も
人の死をタイミングとして、
財産の移転がおこなわれることから
相続税の課税対象となっています。
※死因贈与における課税は
贈与税ではなく、相続税です。
③登記が必要
遺贈も死因贈与も
その対象財産が
土地や建物といった不動産であれば、
所有権移転登記が必要となります。
<相違点>
①当事者間の合意
遺贈は単独行為であるため、
遺言者の意思だけでおこなえます。
そうすると、
受遺者は
遺言書の内容が公開され
相続がスタートするまでは
財産の種類や具体的な金額、価値は分からない
ということになります。
これに対して、
死因贈与は契約として、
当事者同士の合意が大前提となるため
受贈者は贈与者が亡くなる前から
財産の種類や金額、価値を
早い段階で把握することができます。
②不動産の課税
対象財産が不動産である場合、
遺贈も死因贈与も
不動産の名義変更が必要となり
それにともなって、
税金(登録免許税、不動産取得税)
がかかります。
しかし、
税金の種類によって税率が違い、
名義変更によっては
死因贈与の方が税率が高くなります。
③書面の作成
遺贈は遺言書、死因贈与は契約書と
それぞれ書面の作成が大切です。
ただ、死因贈与は、
口頭ベースでの約束でも成立し得ます。
「言った」「聞いてない」
などというコミュニケーショントラブル
とならないよう、
契約書にきちんと反映しましょう。
④撤回の難易度
遺贈は単独行為であるため、
1度作った遺言書でも、撤回して
新しい遺言書に変えることができます。
(民法第1022条)。
死因贈与もまた
相続に準ずる制度であることから、
基本的に撤回可能です。
ただし、
デメリットで説明したとおり
負担付き死因贈与の場合は
撤回の難易度が上がる
ことに注意したいものです。
⑥所有権移転登記のしやすさ
対象財産が不動産の場合、
遺贈や死因贈与にともなって
第三者への対抗要件をそなえるため、
所有権移転登記手続きをおこないます。
遺贈における所有権移転登記は、
受遺者と遺言執行者でおこないます。
遺言執行者がいない場合は、
相続人が遺贈義務者として
遺言による贈与を履行する必要があります。
※相続人全員の同意は不要です。
一方、
死因贈与では、受贈者だけでなく
贈与者の相続人全員と共に
所有権移転登記をしなくてはならない
のが原則です。
誰かひとりでも相続人が反対すれば、
名義変更ができなくなります。
⑤不動産の仮登記
不動産を遺贈する場合、
不動産の仮登記はできません。
これに対して、
不動産を死因贈与する場合は、
受贈者の承諾をもって不動産仮登記が可能です。
この仮登記によって、
死因贈与で所有権移転の可能性のある不動産
であると扱われ、
贈与者の死後、受贈者は単独で
所有権移転登記手続きができます。
(始期付所有権移転仮登記)
ただ、
仮登記という事実の認識違いから、
後々相続人とのトラブルの可能性も否めません。
死因贈与契約書には
仮登記の承諾や契約執行者の指定を明記する
契約書を公正証書とする
などの対策が有効です。
※死因贈与で取得する不動産は
上記の理由から、
登記手続きに手間がかかります。
⑦年齢制限
遺言という制度は、
被相続人の意思を最大限尊重するルール
となっています。
そのため、遺贈は、
「自分の書いた内容を
確認・理解できる年齢に達すれば
遺言ができる」
という考え方から、
その年齢と定義される
15歳になれば、単独でおこなうことができます。
(民法第961条)
一方、死因贈与は
契約という法律行為であるため、
贈与者は成人となる18歳以上
でなくてはなりません。
また、
未成年者が死因贈与契約をおこなう場合は、
保護者などの法定代理人の同意が必要
となります。(民法第5条)
※未成年受贈者が
贈与財産を単独で受けることは可能です。
【遺増と死因贈与の選択】
「自分の財産をあの人にのこしたい。
遺言と死因贈与、どっちにしよう?」
それぞれの特徴やメリット、デメリットが
明確にはなりましたが、
自分の財産を渡す方法をどちらにしようか、
迷われるかもしれません。
遺贈と死因贈与の選択は、
財産を渡したい人の想いによって違う
と言えるのではないでしょうか。
その判断基準のひとつとしては、
「渡す財産を相手に把握されたいか」
でしょう。
事前に相手にあげたい財産を
知っておいてほしいのであれば、
死因贈与がおすすめです。
死因贈与は受贈者が承諾して、
契約書に署名捺印して、
当事者の合意を認めます。
受贈者は具体的に
これから起こることを
はっきり自覚することができます。
ただ、
財産は、プラスのものもあれば
マイナスのものもあります。
指定する相手によっては、
いずれ自分の手元に多額の財産が手に入る
と分かり、
生活態度や振る舞いに変化が出る
かもしれません。
そのような事態を避けるのであれば、
遺贈を選択し、
遺言書を事前に作成して
財産の承継先を指定する方がよいでしょう。
そのほか、
「確実に相手が受け取ってくれそうか」
もまた、重要な判断基準といえます。
たとえば、
対象財産が不動産であった場合、
不動産の維持管理ができない
ほしくない、などの理由で
相手が確実に受け取る見込みがない場合は、
遺贈を選択すれば、
不動産名義変更の税負担や
手続きの手間を減らすことができます。
しかし、
自分の財産を相手に確実に渡るようにしたい
と思うなら、
死因贈与がよいと考えます。
受贈者は期待するかしないかに関わらず、
受け取る予定の財産を取得することを
契約の合意事項とするので、
事前の手続きなどが準備しやすくなります。
ただし、
ご紹介したデメリットにあるとおり、
名義変更における手間やコスト
は把握しなければならないでしょう。
【遺贈VS死因贈与】
ちなみに、
遺贈と死因贈与の両方にあてはまり、
形式の違いゆえに争いが起きるケース
があります。
たとえば、
遺贈する旨の遺言書があるのに、
死因贈与契約合意を主張する
別の受贈者があらわれる
という場合です。
この場合は、最初に、
遺言書の有効性を確認する
ことをおすすめします。
遺言書が法律にのっとってのこされているか
内容に無効な部分はないか
のリーガルチェックをおこない、
有効性に問題があれば、死因贈与が優先
となります。
また、死因贈与も、
死因贈与契約書の存在
が大きく優先度を左右します。
どちらも有効と考えられる場合は、
作成された遺言書と契約書、
両方の作成年月日を確認しましょう。
遺言をした後
その遺言に抵触するような
死因贈与がおこなわれたのなら、
遺言を撤回したとみなす
という法律ルールがあります。
(民法第1023条)
さらに、死因贈与契約は、
原則、遺贈の規定が準用されます。
(民法第554条)
これらを考えると、
死因贈与契約後に遺言書をのこした場合、
死因贈与契約は撤回となる
と考えることができます。
【後悔のない自分の財産の渡しかた】
自分ののこす財産を、
どんな想いで、
いつ、どのくらい、誰に託すのか。
それを考えることによって、
一般的な相続ルール以外にも
遺贈と死因贈与という
ふたつの選択肢を検討することができ、
選んだ方法によって、
準備が必要な書類の内容やタイミングが
異なります。
相続で
想定されるさまざまなトラブルを防ぎたい。
少しでも不安を減らしたい。
どんな書類をどうやって準備すればいいか不安。
WINDS行政書士事務所は
そう思われる皆さまのライフプランを
心残りがないよう、サポートをさせて頂きます。
シチュエーションに応じて
キメ細かな予定もご提案いたしますので
どうぞお気軽にご相談ください。