コラム

二重国籍者のメリット・デメリット

2022.07.20[VISA]




【身近な存在になったスペシャルな存在】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
国際的な交流がさかんになっている現在は
両親の異なる国籍を受け継ぐことによって
二重国籍者が誕生することも珍しくありません。
著名人やクラスメート、同僚など、
皆さまの身近にも国籍をふたつ持つ方は
いらっしゃるのではないでしょうか。

私たちは、
アイデンティティーを大切にしながら、
ご自身の特徴を詳しく知ることは
とても大切なことだと思います。
二重国籍者の方々も、当然同じです。

今回は、
二重国籍者にスポットライトをあてて、
二重国籍者であるがゆえのメリットや、
気を付けたいことについて、
日本とアメリカの二重国籍をベースに
ご紹介します。
※二重国籍者の国籍選択や
 パスポート使用の注意事項などは
 以前のコラムでご紹介しています。
 ⇒
二重国籍者の国籍選択と手続き
 ⇒
二重国籍者のパスポートの使いかた



【二重国籍になるということ】

二重国籍者とは文字通り、
ふたつの国籍を同時に持つ人のことです。
日本では、血統主義を採用しているため、
一般的には二重国籍をみとめてなく、
20歳になると
国から国籍の選択をせまられます。

※国から求められる国籍選択の手続きは
 義務とされながらも、現状罰則はなく、
 ほかの国のルールも尊重されつつ
 強制的にはおこなわれていません。

※二重国籍者の国籍選択の手続き
 については、
 以前のコラムでもご紹介しています。
 ⇒
こちら

また、
新生児以外の者が
ほかの国籍を取得した場合は、
戸籍登録を残していたり
日本のパスポートを所持していたとしても
日本の国籍は自動的に喪失します。


ちなみに、
日本国籍が喪失するもうひとつの事由として
市民権の取得という制度があり、
アメリカ国籍を取得するのとおなじ扱い
となります。

一方、永住者は、
アメリカ国籍者でなくとも
永くアメリカに住むことができる

のが特徴ですが、
アメリカ市民権を取得すれば、
永住者でなくなる=日本人でなくなる

ことを意味しますので
注意したいところです。



【二重国籍者のメリット】

二重国籍者であるために、
日本人とは違うメリットを感じる
ことがあるのではないでしょうか。
一般的に考えられるメリットを
ご紹介しましょう。

①クロスボーダーな渡航
アメリカ国籍(=アメリカ市民権)を持てば、
国籍を放棄しない限り、
永久にアメリカ人でいられます。
これによって、
VISAなしでアメリカへの入国が可能
となり、
滞在期間も無制限となります。
同時に、日本人でもあることから、
日本への入国もVISAの手続きが不要
となりますので、
VISAの手続とは無縁の
自由なライフスタイルを実現
できます。

②国籍のアドバンテージ
日本人である特性を生かして、
日本のパスポートを使うことによって
ショートステイ用VISAの取得が不要
となります。
※日本のパスポートは、国際的信用も高く、
 VISAなしの短期渡航が認められる
 国やエリアも多いことから
 世界最強のパスポートと称されています。


一方、海外から日本に来る外国人は、
日本でショッピングすると免税措置
を受けられます。
アメリカでは
消費者が小売店で一定金額の商品を購入したり、
特定の商品を購入すると
売上税(Sales tax)や消費税(Excise Tax)
の課税対象
となりますので、
非常に便利といえます。
※アメリカの売上税などは、
   州によって異なります

(例)アラスカ・デラウェア・
   モンタナ州:非課税
   ニューヨーク・ハワイ州:4%
   フロリダ州:6%
   イリノイ・マサチューセッツ・
   テキサス州:6.25%
   カリフォルニア州:7.25%、など


③海を越えた就労
日本とアメリカの二重国籍者は、
アメリカ人として
アメリカで就労しやすくなります。

もし二重国籍者の子ども
親と同じように二重国籍者となれば、
将来成長すると、
国をまたいだ仕事もスムーズにおこなえる
かもしれませんね。

④アメリカでの相続優遇
アメリカでは、
資金移動に関して制限がないルール
(Unlimited Marital Deduction)

が存在します。
また、アメリカの遺産税上、
アメリカ市民でない者の
遺産税控除額は6万ドル

であるのに対して、
アメリカ市民権者の控除額は
$11.7ミリオン

と、控除枠が充実しています。
また、
子どもに11.7ミリオンドル以上贈与
する場合は
連邦贈与税の対象
になりますが、
受贈者がアメリカ市民の配偶者である場合は、
生涯非課税枠が適用され、制限がありません。
※上記の条件を備えていたとしても、
 配偶者が長期間アメリカを離れ、
 日本に在留していると、
 遺産税上アメリカ市民とみなされないおそれ
 があります。


⑤2か国の血を引く誇り
日本とアメリカの言葉や文化、価値観
を両方知ることができ、
多様な価値観を認め、
両方の国との掛け橋にもなり得ます。



【二重国籍者のデメリット】

二重国籍者は
充実したメリットと同じくらい
課題や問題点があることも事実です。
多少マニアックな内容となりますが、
一般的なものをご紹介します。

①二重課税
2つの国籍を持つ以上、二重国籍者は、
日本とアメリカ、2つの国の法律にしばられる
ことになります。
もっとも身近な問題としては、
納税義務でしょう。
アメリカ市民は毎年、
アメリカでの税務申告義務や情報開示義務
が発生します。

たとえば、
アメリカ市民権取得者が
日本でフリーランスとして仕事をし
中長期在留
すると、
日本の住民税や国民健康保険料、国民年金、
また確定申告をもって所得税を支払います
が、
これらと並行して、
アメリカでも税務申告をしたうえで、
アメリカにも税金を納めなければなりません。

②日本の公務員になれない
国や自治体で
公務員として就労する条件
のひとつとして、
他国籍者、重国籍者でないこと
があげられます。
二重国籍者は
この条件を満たすことができない

ため、
警察官や外交官などにはなれず、
教員免許を取得することもできません。


③海を隔てた家族との関わり
どちらかの国に居住していると、
もう一方の国にいる家族や親族に
頻繁には会うことができない
でしょう。
親族の看護、介護
親族の出産立会い
親族のために日本の役所で代理手続き

という場面では、
そばで手伝うことができず、
緊急事態が起きたときにも
そばにいてあげられません。 
頼れる親族が近くにいないのは大変ですね。

④相続税の取り扱い
もし、二重国籍者が
日本にいる親族か遺贈を受ける立場になる場合

日本国籍の喪失が認められていれば
受贈者が10年以内に
日本国内の住民登録をしていない

という条件で
日本国内財産だけに、相続税が課されます。
しかし、
実際二重国籍者が相続を見越して
この扱いを受ける条件を満たす準備をすることは
非常にハードであることが予想されます、

<国税庁:国外在住者の相続税課税要件>



⑤徴兵の可能性

二重国籍者ではあるものの
アメリカ国民と認められれば、
将来的に有事の際に徴兵されるリスク

が高まります。
※欧州では、
 ひとつの国で兵役をクリアすれば
 もうひとつの国では免除がなされています。




【二重国籍をめぐる日本の動き】

日本は血統主義を採用していることから、
二重国籍を認めていないスタンスで、
現在は
二重国籍者が20歳になった時点で
国籍の選択を求められます
が、
現在、国会では、
国境を越えた平和と友好関係の象徴として、
またグローバルスタンダードと
歩調を合わせるため、
国内外にいる
重国籍者のアイデンティティーを容認しよう
という協議

も始まっています。

<参議院:重国籍容認に関する請願>



【スペシャルはポジティブ!】

私自身も、26歳までは
日本を含めた3重国籍者だったことがあり、
それぞれのコミュニティに関わり
触れたことで、幼いころから
自分自身はなに者なのか?
ということを深く考え、知る機会
に恵まれました。

様々な日常を送る誰もがスペシャル
だと、私は思います。
二重国籍者の皆さまも、
持ち合わせるメリットやデメリットは
自身の特徴のひとつ

とポジティブにとらえて
かけがえのない毎日を過ごしてほしいです。

二重国籍に関するお悩みや手続きのご相談は、
WINDS行政書士事務所で承っております。
どうぞお気軽にご相談ください。