コラム

【甘くみないで!】行政指導ってなに?

2022.09.07[行政書士・業務]




【トラブルあるところに行政指導あり】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。

事業者は、ビジネスを展開するうえで
店舗や施設を持ち、サービスを提供するため、
国や自治体に申請して許可や免許を受けたり
届出をして認められたりすることが多いです。
また、
事業者にとってのビジネスの取引相手は
個人や法人だけでなく、
国や自治体である場合もあります。

そんな事業者が、自分のビジネスで
私たちの日常生活に悪影響を与えた場合、
国や自治体から行政指導
というものを受ける場合があります。
最近では、
大手企業の通信障害や
システム障害に対する行政指導が、
私たちの日常生活にも大きなダメージを与え
行政のアクションも注目されたことが
記憶に新しいところです。
日本経済新聞:2022年7月KDDI社通信障害に対する行政指導
日本経済新聞:2021年みずほ銀行ATMトラブルに対する行政指導及び処分

事業者が
国や自治体から行政指導を受けた場合、
これまでどおりの事業活動ができなくなるなど、
ビジネスに不利益が生じる可能性があります。

行政指導とはどういうものか。
また、
行政指導を受けた場合はどうすればいいいか。
事業者の皆さまは
予備知識としておさえておきたいところです。




【行政指導とは】

行政指導とは、
監督官庁などの行政機関による
任意の協力要請

です。

行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
(行政手続法第32条第1項)


個人や事業者が
日常生活やビジネスにおいて
法令違反をした場合、
または
法令違反には至っていなくとも
違反リスクがある場合、
行政機関が違反行為の是正やリスクを解消
するためになされるものです。

たとえば、
法令違反をした、
または違反リスクのある事業者に対して
役所が
違反行為のストップや改善策を求める
指導、勧告、アドバイスなど
が、行政指導にあたります。

行政指導は、
行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため、特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいう。
(行政手続法第2条6号)





【行政処分と行政指導】

行政指導をよく理解するために
避けて通れないのが、
行政処分と行政指導の定義の違いです。

行政指導は
法律上の根拠を必要とされていません
ので、
事業者は
必ずこの指導に従わなければならない
というわけではなく、
事業者の任意判断に委ねられる
こととなります。

これに対して、
行政処分とは、
行政機関によって
国民の権利義務が発生することが
法律で認められる行為、
たとえば、
申請に対する許可
(事業者がビジネスでき、権利が発生)
命令、停止
(事業者の義務が発生、権利がストップ)

が該当します。

公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。
(最判昭和39年10月29日判例)


行政指導や行政処分といった
行政機関の監督措置
次のながれでおこなわれるのが一般的です。



先に紹介した
民間金融機関のシステムトラブルは、
行政指導の後も結局解消されず、
度重なるトラブル発生が続出したことから
後日、
金融庁による報告徴求命令に発展しました。
この処分が
決して軽くはないことがわかりますね。




【行政指導に従わなかったら?】

行政指導の影響力は
社会的にも大きいものがあります。
この行政指導に従わなかった場合、
私たちはどうなるのでしょうか。

行政指導はあくまでも、
行政機関による任意の協力要請に過ぎません

ので、行政指導にしたがう義務はなく、
行政機関は、
行政指導に従わないこと自体を理由に
対象者を不利益に取り扱うことは
禁止されています。


行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
(行政手続法第32条第2項)。


しかし、
行政指導に従わない
または
従ったが解消されない場合は、
行政処分が発動されるおそれ
があります。

また、
前段階から
行政処分レベルの違法状態と判断され
行政処分を下す前提でのプレアクションとして
行政指導がおこなわれる

ことも、決して珍しくはありません。

そのため、
対象者は行政指導を受けた場合、
根拠となる法令やルール
行政指導の先の処分の見通し

などを考えつつ、
慎重に対応する必要があるでしょう。

ちなみに、

対象者が、行政機関からの

報告徴求に応じない
立入検査を正当な理由なく拒否する
改善命令に従わない
業務停止処分に従わない


場合は、多くのケースで
懲役刑や罰金刑が設けられています。
※罰則は内容は根拠法令によって異なります。




【行政指導に対する対応方法】

行政指導を受けたとき、

指導で指摘を受けた内容はおっしゃるとおり
どうしてこんな指導を受けたか納得いかない


と、感じた場面を想定しましょう。

前者の場合は
指導内容を受け入れて従うことが必要ですが、
後者の場合であれば
さまざまな対応の選択肢があります。


①行政指導にしたがわない意思の表明
任意要請である行政指導に
確かな根拠、心当たりがないのであれば、
対象者は行政指導に従わないことを
明確に主張しても良いでしょう。
対象者から
指導に従わないという意志表示を受けた場合
行政機関は行政指導を継続してはならない

とされています。

ただし、
行政機関が行政指導をおこなう場合には、
指導の趣旨や内容、根拠や理由などについて
相手方に示さなければならない

とされています。
対象者は、
指導内容の適切性
プレアクションとしての指導の可能性

を見極める
必要があります。

行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から前二項に規定する事項を記載した書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない
(行政手続法35条3項)


行政指導の内容に納得できないようであれば
指導内容を明らかにした書面を求める

とよいでしょう。


②行政指導の中止等を求める
行政指導の中には、
一定の法令違反が認められる場合に、
行政機関が
法令違反に基づく警告として
行為の是正を求める勧告などができる
場合があります。

このような行政指導がなされた場合、
対象者は、
社会的信用を失うなどの不利益
事実公表されることによる不利益
を受けかねません。

そこで、
対象者の権利を保護するため、
一定の場合には、
行政指導の中止等を求めることができます。

法令に違反する行為の是正を求める行政指導(その根拠となる規定が法律に置かれているものに限る。)の相手方は、当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、当該行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、当該行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができる。
ただし、当該行政指導がその相手方について弁明その他意見陳述のための手続を経てされたものであるときは、この限りでない。
(行政手続法36条の2)


行政指導の中止等の求めをおこなうときは
対象者は行政指導をした行政機関に対して
申出書を提出します。

<行政指導の中止等を求める申出書>




この求めは
行政指導をおこなった行政機関に対する
不服申し立て

となりますが、
求める内容が
法的な根拠に基づくものでなければ
実際に受け入れられる可能性が低い

ため、
慎重に選ぶべき手段といえます。

③国家賠償請求訴訟の提起
マンションを経営しようとした事業主に対して
自治体が教育施設負担金の寄付を求めた行為
に対する裁判で、
行政指導が
違法な行政処分の可能性に基づくものであれば
国家賠償法上違法となる場合があり得る

と判示されたことがあります。
(最高裁平成5年2月18日)

このようなケースに該当する
行政指導の可能性が高い場合は、
国や自治体に国家賠償請求訴訟を提起して
損害賠償を求めることができます。

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
(国家賠償法第1条第1項)


なお、国家賠償請求訴訟では、
行政指導の違法性や
対象者自身が受けた損害など
ついて証拠を提出して立証する

ことが必要です。

④行政処分を待って取消訴訟の提起
行政指導自体は、
行政処分の前段階として要請
されるため、
例外的な場合を除いて、
行政指導自体の取り消しを
裁判所に求めることはできない

ことになっています。

しかし、
行政指導から行政処分に
発動がステップアップした場合は、
行政処分の取消訴訟を提起できます。

処分の取消訴訟は、当該処分につき法令の規定により審査請求をすることができる場合においても、直ちに提起することを妨げない。
ただし、法律に当該処分についての審査請求に対する裁決を経た後でなければ処分の取消しの訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、この限りでない。
(行政事件訴訟法第8条第1項)


もし納得がいかない行政処分を受け、
処分前に行政指導を受けた場合は、
その行政機関を訴えることが可能です。

ただし、実際に訴訟を提起する場合は、
法的根拠をもとにした主張と証拠の立証
が求められることを十分念頭に置きましょう。




【指導は受けないことが1番】

行政機関から出される行政指導は
さまざまな内容がありますが、
対象者がとるべき対応も異なります。

事業者であれば、
その営業行為やビジネスアクションが
法に触れてはなりませんが、
無意識のうちに法令違反となるリスク
もつきものです。
事業者が引き続き営業を継続できるように
オペレーションや意識の見直しを
迫られることもなります。

私たちは、
行政指導や行政処分などの監督措置
を受けないよう
適切な行為を心掛けることが大切ですね。
実際に行政指導を受けたとしても、
あわてることなく、
行政指導の内容をきちんと確認したうえで
冷静に適切に対応したいですね。

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