【相続人に保証される遺産】遺留分
2022.09.28[遺言相続]
【法定相続人が相続で持つ権利】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
自分に万が一のことがあったとき、
遺言書をのこして
自分の財産を自分の希望どおりに
相続させることができます。
※遺言書と遺贈については、
以前のコラムで詳しくご案内しております。
⇒遺言書の方式と重要性
⇒【似てる?違う?】遺贈と死因贈与
しかし、
遺産がすべて
遺言者の希望どおりに引き継がれるか
といえば、
そういうわけにもいかない場合があります。
遺産の相続割合が公平でなく、
のこされた法定相続人の相続が
あやぶまれることがあるからです。
そこで、
遺言書に書かれなかった法定相続人を
救済する制度が、
遺留分
です。
遺言で不利となった法定相続人の切り札
であるこの権利。
相続の当事者になる方は、必須の知識
となるでしょう。
【遺留分とは】
遺留分とは、
法定相続人に最低限保障される遺産取得ルール
を言います。
相続人は、相続放棄をしないかぎり、
遺産は相続する、できる
という考えをもっているのが自然です。
法律は、公平な相続を実現するため、
法定相続人のなかで
まったく相続ができない
遺産の取得割合が明らかに不公平である
という場合に備えて、
遺言によっても奪われることのない
遺留分を保障し、
本来相続人に相続されるはずである
最低限の遺産を得る、取り戻せる
ように、ルールが定められています。
この遺留分という権利は、
遺言書の形式や内容にかかわらず
権利を行使できる期間内は
なくなることがありません。
遺留分によって
救済される者とその割合は、次のとおりです。
各相続人が本来相続する見込み額に
この割合をかけて、
請求可能な遺留分の金額がわかります。
※子どもが複数いる場合は、
頭割りで等分されます。
※兄弟姉妹、代襲相続人である甥と姪は
遺留分の主張ができません。
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
(民法第1042条)
遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。
2 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
(民法1043条)
【遺留分をおびやかす行為とは?】
そんな相続人の遺留分を侵害する行為は、
次のようなものを指します。
贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
(民法第1044条)
CASE1はさらに、
次のような事例が考えられます。
①全遺産を特定の相続人に託す遺言
たとえば
相続人にあたる子どもが複数いて、
「すべての遺産をこの子だけに残す」
という遺言を残した場合、
ほかの子どもたちの遺留分を侵害する
ことになります。
②全遺産を相続人ではない第三者に託す遺言
たとえば
「すべての遺産を愛人に残す」
という遺言を残した場合、
配偶者や子どもの遺留分を侵害する
ことになります。
③不公平な内容の遺言
複数の子どもがいるとき、
特定の子どもの取得割合が多い
ほかの子どもの取得割合が少ない
といった場合にも、
遺留分侵害となる可能性があります。
この場合、
遺留分を侵害された子どもは
侵害割合に応じて
侵害者に遺留分の返還を求めることができます。
【遺留分侵害額請求権】
遺言が遺留分を侵害する内容
と判断されたとき、
侵害される法定相続人は、侵害者に対して、
遺留分を取り戻す請求をすることができます。
これが、
遺留分侵害額請求権
です。
以前は
減殺請求権といって、
遺産そのものを取り戻す権利でしたが、
現在は、
侵害請求権という、
お金で賠償を要求できる権利
に生まれ変わっています。
遺留分を侵害された人は、
遺留分侵害者に対して、
遺留分に相当するお金を払わせる
ことになりますので、
この請求が発生した場合、
侵害者は
基本的に遺留分に相当するお金を
侵害された人に支払わなければなりません。
遺留分侵害請求権を行使できる期間は、
次のとおりです。
遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
(民法第1048条)
①は時効期間として、
請求することによって権利をキープできます
が、
②は除斥期間と呼ばれ、
請求しても権利が消滅してしまう
ことに、注意したいところです。
しかしながら
この請求は任意でできるものであって、
遺留分を実際に請求するかどうかは
侵害された人の判断に委ねられます。
遺言をのこした人の意思を尊重して、
遺留分を侵害されても請求しない
という選択肢もあり得ます。
【遺留分侵害額を請求できない者】
民法では、
遺留分侵害額請求権を使えない者も
次のように定義しています。
①と②は、
家系上もともと遺留分を受け取れない
③と④は、
通常は遺留分を請求できるはずなのに
事情により認められない
と、
請求権を行使できない理由が分かれます。
<相続欠格者>
相続欠格者とは、
相続人でありながら
次のいずれかに該当する者をいいます。
相続財産を受け取る立場としては、
どれもあり得ないことで
資質としても問題が大きく、
欠格と扱われるのも当然といえますね。
ただし、
相続欠格者は、
あくまでその本人のみが判断され、
相続欠格者の子は代襲相続者として
遺留分を請求することが可能
です。
<相続廃除者>
相続廃除者とは、
遺留分を持つ者でありながら
相続人としての権利を剥奪されてしまう者
をいい、
次のいずれかに該当する者をいいます。
相続欠格者との大きな違いとしては、
現実的にあり得る要素が強い
代襲相続者までも廃除されてしまう
という点があげられます。
被相続人をリスペクトできない者は
その末裔にいたるまで
遺産はびた一文とも渡さない
という、
法律の強いメッセージがうかがえます。
【遺留分侵害額請求の手順】
一般的な遺留分侵害額の請求手続きは、
以下のとおりとなります。
①相続人と相続財産の調査、確定
相続全般にもいえることですが、
請求できる遺留分を把握するために
まずは
誰が相続人か
遺産はなにがどのくらいあるのか
を明確にすることによって、
遺留分侵害額を把握することができます。
②遺留分侵害額請求の通知
遺留分を侵害された者は
①で判明した遺留分侵害額を
遺留分侵害者に対して、
遺留分を侵害された金額を請求します
という通知をします。
通知方法については
決まったルールがありませんが、
通知したという証拠が残る方法が望ましく、
内容証明郵便
などを利用するのが良いでしょう。
③侵害者との協議
侵害請求者は、遺留分侵害者と
返還してほしい遺留分侵害額
支払期限
について協議します。
③-2調停の申立て
もし
侵害額請求者と侵害者との間で
話がまとまらない場合、
侵害者の住所地を管轄する家庭裁判所に
調停を申し立てます。
調停とは、
裁判官や調停委員などの第三者に関与してもらい、
協議を進める手続きです。
③-3請求訴訟の提起
侵害額請求者と侵害者間の
協議が難航する場合は、
侵害者の最終住所地を管轄する
地方裁判所または簡易裁判所に
遺留分侵害額の請求訴訟を提起し、
裁判所による強制的な判断に委ねる
ことになります。
④侵害額の確定、支払い
最終的に双方が協議事項に合意したら、
後々、双方で言った、言わなかった
などのトラブルを防ぐため、
侵害額の支払いに関する合意書を作成
し、
侵害額の支払いを受けます。
※受遺者と受贈者が複数いる場合は、
先に受遺者から負担します。
(遺贈→死因贈与→生前贈与の順番)
【生前にできる!遺留分対処法】
法定相続人に遺留分が認められる
ということは、
被相続人の死後
遺産をめぐってトラブルとなる可能性
があります。
そこで、被相続人の立場から、
遺留分へ十分配慮しながら
様々な面から対策を講じることができます。
そんな対策をご紹介します。
①遺言書に付言事項を書く
遺言書には、
付言事項をのこすことができます。
遺言書には、
各相続人の指定
被相続人の財産分配方法
などの重要事項がならび、
それら内容にしたがって遺言執行されますが、
付言事項は、最後のセンテンスとして
「私の遺産相続で揉めないでほしい」
「今までありがとう」
「この子にこの家を渡して、落ち着いて生活してほしい」
「家族で仲良くするように」
「兄弟で助け合っていってね」
「お母さんを頼む」
など、
遺言者の想いや感情的なうったえ
を記すことができるものです。
付言事項には法的な効果はありません。
そのため、
残された相続人たちが
付言事項の内容にしたがうかどうかはわかりません。
しかし、
遺言者の気持ちが明確にわかることで
相続人同士であえて遺留分をめぐって争おう
という考えをやわらげる
可能性もあり、
できる限り遺留分侵害請求を未然に防ぐための
有効な方法のひとつであると考えます。
②十分な現金や預貯金を残す
たとえば、
土地や建物といった不動産は
ケーキをカットするように簡単には分割できず、
評価額の算定
共有名義
不動産変更登記
など、手続が煩雑になります。
じつは、遺産相続においては、
こうした不動産の取り扱いが
遺留分をめぐる争いにおいての大きな理由
となることが多いです。
また、
①の対応をしたとしても、
遺留分侵害請求の可能性は消えるわけではなく
もし実際に侵害額請求がなされたとき
侵害者に支払うお金がない状態であれば
侵害者も請求者も困ってしまうことになります。
そこで、
事前に遺留分侵害額の支払いに
必要な見込み金額を事前にシミュレーション
し、
遺産を残したい人の手元に一定額をキープさせ、
すみやかに遺留分侵害額を払えるように
配慮できます。
相続財産のなかでいうと、
現金や預貯金のような分割しやすい財産
が多くあれば、
相続人で遺留分を侵害しないように
相続方法を検討しやすいでしょう。
また、仮に侵害額が発生したとしても、
現金化した財産から侵害額を支払うことで、
結果的に相続人全員が遺留分に納得する形で
財産を分割することができます。
もしも、
被相続人が死亡前に
現金や預貯金を残すことができない場合は
生命保険に加入して、
遺留分侵害額請求を受けそうな相続人を
被相続人の死後
保険金を受け取れるように指定する
という選択肢も、有効といえます。
③相続人を増やす
遺留分の額が高く見込まれれば、
それだけ争いやトラブルの可能性も高まる
と考えられます。
そうであれば、
遺留分となる額を下げる
という措置をとれば、
争いやトラブルの可能性も低くなる
といえます。
子や養子の遺留分は、頭割りで計算されますので、
たとえば、
子の配偶者や孫、パートナーと養子縁組をおこない
被相続人の養子や養女を増やすことで
子の総人数を増やし
相続人ごとの遺留分割合を少なくする
ことも、方法のひとつでしょう。
④遺産総額を減らす
遺留分の額は
遺産額があってはじめて、
相続人による割合計算で決まります。
そこで、
ベースとなる遺産額を減らせば
遺留分の金額が減る
ことになります。
遺留分をめぐるトラブル予防のため、
遺言者自身や家族のために
自らが積極的に使用したり、
生前贈与することで
相続遺産を減らすことができます。
ただし、
生前贈与に関しては、早めにおこなう
ことをおすすめします。
死亡前10年間に相続人への生前贈与した場合、
贈与物は遺留分侵害請求対象となってしまい
相続人の特別受益にもなるからです。
遺産分割協議において
トラブルとならないように気を付けましょう。
ちなみに②でご紹介した
死亡保険金は相続財産対象とはならないため
遺留分算定ベース財産にもなりません。
そこで、
加入する生命保険の種類を貯蓄型とすれば
遺留分算定ベースの遺産総額を減少させる
ことができます。
※遺産額と比較して
過大な保険金額である場合は、
遺留分算定ベースとなる旨の判例がある
ので注意が必要です。
⑤遺留分の放棄
遺留分は権利であって、義務ではありません。
この点から、
遺留分侵害額請求権は放棄することができます。
遺留分侵害額請求をする
と考えられる相続人がいる場合は、
被相続人の生前に遺留分を放棄をしてもらう
のも、方法のひとつと言えるでしょう。
被相続人の生前に
遺留分を放棄するには、
遺留分侵害請求権者が
自ら家庭裁判所に申し立てて
遺留分放棄の許可を得る
必要があります。
相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。
(民法第1049条)
遺留分放棄の申立てにあたっては、
以下のような要件を満たすことが必要です。
※被相続人が請求権者に
遺留分を放棄させることはできません。
⑥遺言執行者を選任する
遺留分は
遺言の執行においても密接に関係します。
そのため、
遺言執行者を選任して
凍結預金の解除や不動産登記の変更など
遺言内容の諸手続きを確実におこなってもらう
ことも、対策のひとつと言えるでしょう。
遺言執行者を相続人のひとりに指定すると
相続人同士の対立が生まれるリスク
がありますが、
行政書士などの
行政手続きのプロフェッショナルであり
中立となる第三者にふさわしい者が
遺言執行者に就任することで、
相続人が公平であることを納得する形で
遺言内容を執行しやすくなります。
⇒当事務所にご相談ください。
【だからこそ注目!遺言書の役割】
対処法をご紹介したものの、そもそも、
遺留分を侵害しないように
遺言すればいいんじゃない??
と、考えることができますが、
現実的にそれは難しい
といえます。
遺留分を侵害されれば、
侵害額請求権者が侵害者に請求して
遺留分を取り戻すことができるものの、
もともと侵害額を請求するかどうかは自由
とする権利の性質から、
遺言書そのものが無効になるわけではなく、
相続人が遺言書の内容に納得すれば
遺言が有効となる
遺留分侵害額請求が発生すれば
相続における効力関係が変わる
という、異なるふたつの側面があります。
そのため、
遺言書があれば
相続財産は内容の通りに取り扱われ大丈夫
というわけではない
ことが、わかります。
反対に考えると、
遺言書の内容が
不平等、理不尽と思われるものだったとしても
不利益を被るであろう相続人が
遺留分侵害額請求をしなければ
遺言書の内容が優先され
遺産分割が進められる
ということにもなります。
それでも
遺言書は必ずしも無意味なものではない
といえます。
相続人の権利は、
あくまで被相続人である故人の意思と同じ
であるべきです。
遺言者にとっての遺言書とは
自分の死後、大切な人たちを揉めさせてはいけない
重要性を持つのと同時に、
自分になにかあった後
みんながもし困るようなことがあるのであれば
その時は遺留分を請求してね
という大切なメッセージも含む
ことを理解することができます。
自分の死後、最愛の人たちが、
相続人の立場で揉めること
また、
自分が指定した遺産分割方法で
誰かが路頭に迷うようなこと
を、被相続人が望むはずがありません。
そう考えると、遺留分は、
相続人にとってのお守り
と言えますね。
遺留分が十分に機能するよう、
遺言書は、
各相続人の相続バランスをできるだけキープする
内容とする
のが賢明といえます。
【大切な家族への想いをより良い形に】
遺留分は、
のこされた相続人が行使できる権利
であると同時に、
被相続人の最終的な願いが尊重される鍵
ともいえます。
遺言書の内容に問題がなければ、
遺言通りの手続きが執行され
遺産相続がなされますが、
必ずしも相続人全員が
納得できるものではなく、
争いの事例の多いのが事実です。
せっかく遺言書が残っても、
かえってトラブルが引き起こされては
本末転倒です。
もしも
相続人が遺産分割協議の結果が不利
と感じる場合は、
まずこの遺留分を算定してみて
自分が受け取る予定の遺産額が適正か判断し
もし異論がある場合は
家庭裁判所へ
遺留分侵害額請求を申し立てましょう。
WINDS行政書士事務所では
遺言書作成や遺留分対策における諸手続きにおいて
ご相談対応やサポートを承っております。
遺産相続に関連したお悩みや疑問をお持ちの方は、
是非、ご相談下さい。