【スクラップアンドビルド】企業の組織再編
2022.11.16[事業支援]
【ネクストビジョンに向けた特効薬】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
事業者は、その業績や社会情勢に合わせて、
営業やサービスの拡大をはかり、
事業の運営を続けていきますが、
業績や経営状態に変化がある場合、
または変化を起こしたい場合、
事業者が打つ次の一手が、
組織再編
ではないでしょうか。
時折、
有名企業やベンチャー企業が
この組織再編を実施し、
ニュースをにぎわすことも増えていますが、
事業者のシチュエーションや目的によって
その手法が変わります。
メリットや注意事項を把握して、
事業者にとって有益なアクション
ができるようにしたいところです。
【組織再編とは】
組織再編とは、
企業や団体の組織体制の同一性を崩して
現在の状態から大きく変えること
すなわち、
企業や団体単位で
組織スタイルや体制を
元の状態と違う形で
がらっと変更または再編成すること
と一般的に定義されます。
わかりやすい例としては、
企業の買収
複数企業の合体
ひとつの企業の分離
などがあげられます。
組織や団体の見直し方法として
もうひとつ、
組織変更
というものもありますが、
これは、
株式会社が持分会社に変わる
その逆のように、
組織自体は同じものとしてキープしつつ
その形態を変える
という意味で、
実際に組織自体が抜本的に変わる
組織再編とは異なります。
社内の部署再編とは格段にレベルが違う
ということを知っておく必要がありますね。
※持分会社は、
合同会社・合資会社・合名会社
を指します。
※持分会社は、
出資者と経営者が同じである
(=株主がいない)ため、
スピーディな意志決定
というアドバンデージを活用するため、
あえて持分会社へ変更する企業
も存在します。
組織再編をおこなうことで
企業や団体のステップアップを後押し
できる可能性が高い反面、
実際に進めることになれば、
株式の移転や関係者
社員への説明
をおこなう必要があるなど、
大きなエネルギーを伴います。
結果、
企業や団体の存亡にも関わる
と言っても大げさではないため、
事業者は大きな経営判断が必要
と言えます。
実際に組織再編を実施すべきか
実施するとすればどの手法を選ぶか
といった判断を的確におこないます。
【組織再編のメリットと課題】
法人格の同一性が完全リセットされ、
企業や団体の体制を組み替える、組織再編。
メリットとしては、次の3つがあげられます。
①競争力アップ
組織再編で、
企業買収や経営権の取得をおこなうと、
展開ビジネスのマーケットシェアや
影響力の拡大が見込め、
最終的には競争力の強化につながります。
また、
不採算事業からの撤退や売却、譲渡
をすることで、
自社のストロングビジネスに集中
することもできます。
②資金、資産の有効活用
組織再編によって、
経営の一元化や分散を実現できれば、
コストパフォーマンスの上昇や
ノウハウの結集または分散によって、
企業の保有する資金力や資産の効果的活用
が可能になります。
③企業管理の効率アップ
組織再編によって
関連会社やグループ会社の統廃合ができれば、
組織全体の事業の効率化、活性化
が見込めます。
その企業やグループ全体を見たとき、
経営を含めた、ベストと考えられる組織体制
に変更できることも
魅力的なメリットと言えます。
これらのようなメリットがある一方、
組織再編の持つ課題もあります。
それは、良くも悪くも、
現状が変化する
ことでしょう。
現状が変化する、ということは、
現在あるものが、まったく違うものになる
ことをあらわします。
もしも、企業や団体がこれまで
安定志向に反する変更を目指していた場合、
再編による変化の反対があったり、
役員、社員の総意に反することにもなり、
結果、
人材の反対や流出、株式の下落
などの弊害が発生するリスクもあります。
また、実際に再編を実行することになれば、
実際に社内外のさまざまな人たちが関わります。
そのため、
通常業務に加えて、
組織再編オペレーションの負担が発生し、
許認認可の取り直しや株式の再上場
特別株主総会の開催
など、
数多くの会社手続きを経なければなりません。
【組織再編の種類】
気になる組織再編の手法ですが、
会社の現況や目的によって
大きく4パターンに分けられます。
<合併>
顧客ネットワークの拡大や経営の効率化、
対外的信頼度の向上を目的として、
複数の会社がひとつに完全統合するものです。
資産や債権債務はもちろん、
株主や従業員の増大の目的達成が見込まれ、
企業間の結びつきが非常に強い
手法といえます。
各企業の総務・人事・経理といった
部門を一本化することによって、
発生した余剰人材を他部門に配置換えなど
マンパワーの適正配置も可能です。
合併には、
吸収合併と新設合併の2種類があります。
※資本金1億円を超える法人は
法人税法上、
税務優遇対象外になる可能性があります。
<株式交換>
ひとつの企業(A社)が
別の企業(B社)の株式をすべて取得して、
別の企業を100%子会社化します。
具体的な方法としては、
A社が、B社の株主が保有するB社株を
A社株に交換することになります。
必要最低限のコストで
グループ会社を増やしたい場合
に、この手法が有効です。
一般的に、
株式を取得する親会社A社の方が
株価は高くなる傾向があります。
かつて子会社であったB社の株主は、
A社の株を取得できるため、
配当増加などのメリットが見込めます。
さらに、
子会社は別の法人格を持っていることから、
親会社の経営に参加できたり、
企業買収における
取引先や従業員からの抵抗を軽減
することもできます。
株式交換は、
効力発生前日までに
株主総会の特別決議を実施して
その承認を得ることが必要です。
<株式移転>
新しく設立された企業(A社)が、
ほかの企業(B社)の株式をすべて取得して
100%完全子会社化します。
完全子会社化したい企業数に制限はなく、
必要最小限の出費でスムーズな経営統合
が見込めます。
応用活用すれば、
持株会社を増やしてホールディングス化し、
迅速な組織意思決定の実現が可能です。
手法スタイルが
株式交換と非常に良く似ていますが、
親会社は新設会社
ということが、最大の違いと特徴です。
<会社分割>
ひとつの企業(A社)が
自社事業(X事業)を切り離し、
別の企業(B社)がX事業を引き継ぎます。
引き継ぎ事業は、一部でも複数でもOKです。
新規ビジネスの独立や不採算部門の切り離し
に有効な手法で、
事業の選択と集中を実現できます。
この手法の最大の特徴は、
企業や団体レベルでなく、
事業レベルで承継や分割できることで、
①~③と明確に違いがあります。
非常に良く似たアクションである、
事業譲渡
は、
契約や許認可申請手続きを
ひとつずつやり直さなければならず、
全く別の会社に引き継がせるもので
小規模な事業にフィットする手法
であるのに対して、会社分割は、
契約や許認可を
そのまま引き継ぐことができ、
グループ企業内で引き継げるもので
大中規模の事業にフィットする手法
といえます。
また、
事業に関わるマンパワーやスキルノウハウ、
ひいては
債務なども同時に引き継がれることになる
ことも認識しておかなければなりません。
切り離し事業の引継ぎ先が
新設企業である新設分割と、
既存企業である吸収分割
の2種類があります。
【組織再編における対策】
組織再編の各手法は、
それぞれの課題やリスクが現実化する
可能性がありますが、
おもに重点的に対策しておきたいものを
3点ご紹介したいと思います。
①組織再編の手続きとコスト
組織再編には
多くの費用がともないます。
またその手続き上、
株式会社の特別決議に代表される
会社の特別な承認をとらなければならない
などの手間もあり、
再編の実行後も
福利厚生や人事基準、情報システム
といった
会社のあらゆる仕組みやルールも統合
させなければならず、
関連コストの発生も予想されます。
対策としては、
企業や団体が明確な組織再編の目的を持ち、
その目的に見合った適切な手法を選ぶ
と良いでしょう。
また、
再編における相談や手続きの依頼を
安心できる専門家におこなうこと
も大切と言えます。
再編後は、
販売管理コストの推移を注視しつつ
企業業績アップを目指し、
収支をできるだけ安定化させてから
諸経費の削減に転換したいところです。
②社内風土や規則
組織再編では、
合併などの統合によって
異なる沿革を持つ企業同士が一体化するため、
社内風土や人事制度の統合に関する
コーポレートストレスが生じます。
消滅会社が今まで築いてきた
伝統や情熱、優秀な人材を失うなど
企業にとって多大な損失につながる
可能性も秘めています。
この場合の対策としては、
PMIを検討し、それに沿って
数年単位で少しずつ統合を進める
のがよいでしょう。
PMIとは
組織再編におけるシナジーを
高めるためのプロセスで、
期待した統合効果を確実にするための
統合構築プロセスとマネジメント
を指します。
⇒当事務所までご相談ください。
③経営方針
組織再編をおこなえば、
企業によって
経営方針が大きく変わったり、
作り直したりする場合があります。
そうすると、
従来のノウハウや業務ベクトルでは不十分
と考えられ、
求められる人材やスキルが変わる
可能性も出てきます。
従業員がそうした風潮からストレスを感じると、
企業の事業機能が不安定となる
と大変ですね。
対策としては、
適材適所の人員配置を目指し、
新たな人材採用や既存社員の配置転換、
雇用調整を進める
ことがよいでしょう。
マンパワーの整備ができれば、
研修やワークショップなど、
従業員のキャリアプランのフォローや
育成を充実させる
ことで、
マンパワーと社内資産の充足
が見込めます。
【組織再編手続きに必要な書類】
組織再編手続きにおいては
次のような必要書類が存在します。
①契約書、事業計画書
たとえば、
合併を検討する場合、
取締役会などの業務執行機関
の決定に基づいて、
合併契約を締結するために
契約書が作成されます。
新設合併や新設分割を検討する場合は、
新設会社の事業計画書が求められます。
②事前開示書類
組織再編の際、
対象企業や関係するグループ企業は、
事前に開示すべき書類を作成し、
各企業の本店に備置しなければなりません。
備置期間は
備置開始日から効力発生日の後6ヶ月間
と定められています。
主な記載事項は次の通りです。
組織再編後に債務履行が請求できない
と見込まれる場合は、
債権者は
組織再編について異議を述べる権利
を保有しています。
この場合、
債権者保護手続きとして、
債権者に対する
官報による公告や個別催告
をしなければなりません。
これを
債権者異議催告
と言います。
※組織再編後、
分割会社に債務履行の請求が可能な場合は、
債権者保護手続きは不要です。
債権者保護手続きにおける通知内容は、
次のようなものが考えられます。
③株主総会議事録
組織再編をおこなう場合には、
株主総会の特別決議
を得る必要があります。
また、
株主に対して
効力発生日の20日前までに
組織再編を行う旨を通知
しなければなりません。
ちなみに、
組織再編に反対する株主には、
株式買取請求権の行使が認められます。
※株式買取請求権とは、
企業が組織再編するとき
株主が所有する株式を
公正価格で企業に買い取るように
請求できる権利です。
④登記簿
組織再編を終えた後は、
関係各社で必要な登記を申請をおこない、
法人登記簿にその履歴を残すことになります。
組織再編の効力発生日は、
組織再編の手法によって
次の通り異なります。
⑤事後開示書類の備置
組織再編の手続きが完了すると、
関係企業は、
事後に開示すべき書類を作成して、
関係会社の本店に備置しなければなりません。
備置する期間は効力発生日から6ヶ月間
と定められています。
事後開示書類の
主な記載事項は、以下の通りです。
【組織再編の具体例】
①LINEとZホールディングスの経営統合
両者の既存ビジネス強化と
新規ビジネスへの投資を目的として、
2021年におこなわれた
IT企業同士のM&Aです。
マーケティング事業とフィンテック事業
によるシナジー効果も見込まれていた背景
があります。
吸収合併や株式交換、事業承継など
複数の手法をからめたM&Aの実現は
複雑な取り引きと手続きであった
と予想されます。
②三菱UFJリースと日立キャピタルの吸収合併
前社を存続会社、後社を消滅会社として
2020年9月におこなわれた組織再編です。
吸収合併が決定した背景としては、
金融というフィールドを超えたサービス提供
があげられていました。
両社のビジネスフィールドをの補い合い
経営基盤を強化することはもとより、
新たな企業バリューの創出と増大の実現
も図るものでした。
③各メガバンクの合併
1990年代におこなわれ、
日本の屈指の大規模な企業合併としては
あまりにも有名なものですね。
誕生したのは、
みずほ(第一勧業銀行+富士銀行+日本興業銀行)
三菱UFJ(東京三菱銀行+UFJ銀行)
三井住友(さくら銀行+住友銀行)
の、3つのフィナンシャルグループです。
しかし、①に関しては合併当初から、
システム不統合や、旧銀行間でのたすき掛け人事
などの問題が指摘されたり、
旧銀行間の派閥争いの噂など
現在でも課題が残っていますが、
ホールディングという
グループ形成を果たしています。
④東急不動産ホールディングスの株式移転
2013年、
東急不動産、東急リバブル、東急コミュニティー
などの東急グループ各社は、
株式移転をおこなって
東急不動産ホールディングスを新設しました。
同社は上場し、
株式移転した3社は非上場化に転換、
ホールディングス社の100%子会社になりました。
3社の株主に対しては、
ホールディングス社の株式割り当て
がおこなわれました。
⑤パナソニックグループの事業承継
2022年の会社分割によって
パナソニック株式会社は、
その事業を8社に承継させました。
グループ全体の組織体制としては、
持株会社制度の導入
というフォローアップをおこなっています。
【計画的、抜本的な組織改革を】
企業やグループの体制を
がらっと変えることができ、
一気に事業の効率化が期待できる、
組織再編。
小手先の人事異動や部署配置見直し
だけでは得られない、大きな効果も見込め、
事業上の課題を一気に解決できます。
その手法は、
達成目的やメリット、課題も異なり、
各手続きも煩雑で、
実際に着手されると予想以上に時間がかかる
こともあります。
再編アクションを
自力で運用、成功させるとすれば
一般的に難しい場面もあるでしょう。
WINDS行政書士事務所は、
組織再編における留意事項を
事業者さまごとに分析し、
適切な再編プランのご提示、
手続きサポートをさせて頂いています。
事業ビジョンと経営方針を見据えた形で
事業者さまの再編の先にある光を
当事務所も一緒に見させてください。