【2023年法案再提出⇒2024年施行】入管法の改正
2023.01.25[VISA]
※本改正法案は、2024年6月10日付で施行、
難民認定や監理措置などの変更ルールが
本格的にスタートしました。
【VISAの法律が改正へ】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
外国人の入出国や在留のためのルールが
定められている、入管法。
この法律の改正案が、
議論や廃案など紆余曲折を経て、
今月、国会に再提出されました。
⇒2023年6月9日に国会で可決、
改正法が成立しました。
この改正が実現することで
今後、外国人の在留生活だけでなく
関係者にも影響がおよびます。
今回の改正内容とメリットやデメリット、
外国人や関係者が留意すべきことを
整理していきましょう。
【入管法を知る】
入管法は、
日本と海外諸国間の入出国者の公正な管理
を図り、また、
難民認定手続きの整備
を目的に定められた法律で、
正式名称を、
出入国管理及び難民認定法
といいます。
この法律は1951年、
ポツダム宣言に基づいて制定された政令
でしたが、
翌1952年以降、
ポツダム宣言の受諾に伴い
発する命令に関する件に基く
外務省関係諸命令の措置に関する法律
によって、法律となり、
法的効力を持つようになりました。
※政令とは、内閣が制定する命令であり、
法律とは異なりますが、
命令の中でも最優先的効力を持ちます。
日本との往来管理
外国人のVISAや不法滞在
難民認定手続き
などに関わるすべての人
が、この法律の適用対象となっています。
※適用対象は外国人だけでなく、
日本人も当然に含まれます。
入管法の改正案が出たのは
じつは今回がはじめてではなく、
これまでも社会情勢に合わせて
改正を繰り返してきました。
<近年の入管法の改正遍歴>
【改正法案提出の背景】
今月提出された最新の改正法案は、
在留が認められる外国人の適切な判別
在留が認められない人の迅速な送還
長期収容の解消&より適切な処遇の実施
の3つの考え方がベースとなっています。
そもそも、
再改正しようと考えられた背景としては、
国内不法残留外国人の対処の必要性
が高まったことにあります。
在留外国人は年々増加傾向にあり、
それにともなって
不法残留外国人も増加傾向にあります。
<出入国在留管理庁:入出国外国人数推移>
<出入国在留管理庁:2021年度不法在留外国人数>
不法残留外国人が増えると、
日本国内で生活する私たちにとっても
生活面での安全性や安心できる環境が
おびやかされることになりかねません。
これまでも
はじめて日本を訪れる外国人が
不法残留外国人の影響を受けず
入国できるように
そして日本に住む私たちが
安心して生活できるように
入管法改正案が作成されてきました。
今回の改正法案も
こうした見込みや期待がありながら
2022年には改正法案は廃案
となってしまいました。
廃案となった改正法案の問題点として、
以下が挙げられます。
①適切な難民保護実現の疑問
日本は難民条約に加盟しています。
そのため、
難民や難民申請者をすぐには送還できません。
現行の入管法上は、
難民申請をすれば
何度目の申請であっても
送還されることはありませんが、
改正法案では
難民申請が3回目以降の場合
出入国在留管理局の判断で
送還することができる
ルールとなります。
<出入国在留管理庁:日本の難民受け入れ状況>
<UNHCR:難民受け入れ国TOP5>
日本は海外諸国とくらべて
難民の受け入れが非常に少ない
と評価されています。
また、
不法残留外国人の立場に立って考えると
送還拒否しなければならない理由としては、
送還後に
自分や家族、友人が危険にさらされる可能性
があげられます。
ここで、
日本で難民として認定されれば、
送還先での危険の心配をせずに
安全に生活を送ることができますが、
強制送還に従わざるを得ない場合は、
不法残留外国人の人権が
保護されなくなってしまう
でしょう。
難民申請者保護の観点から、
改正法案は人権的に理不尽なもの
と言われてもおかしくはないですね。
②監理措置の存在
監理措置とは、
不法残留者が逃亡しないように、
監理人を設置し、監理をおこなうルールです。
改正案にこの措置が加わったのは、
収容施設での不法滞在者の長期収容を防ぐため
です。
①で説明したとおり、
外国人が難民申請の手続きをおこなうと、
国は外国人をすぐには送還できず
収容施設に長期収容する
ことになります。
この場面で、監理措置を施すと、
監理人によって監理され、
外国人は収容施設外で生活ができるため
長期収容の問題が解消されます。
※ほかにも、
収容の長期化をできる限り避けるために
収容の継続可否を3か月ごとに検討する
ルールが盛り込まれています。
監理人になれるのは、
親族など外国人をサポートする者
弁護士
を予定しており、
出入国在留管理庁の指示にしたがって
不法残留者の生活の監督
出入国在留管理庁への報告義務を負う
など、
不法残留者を監理サポートする立場
となります。
※監理義務を果たすことができない場合、
監理人は、罰金などの罰則を負う
ルールを前提としていましたが、
「定期的な報告義務」は負わない
と修正されています。
しかし、ここでの懸念点として、
出入国在留管理庁が
監理人を任命する判断基準や要件
があげられます。
また、
監理人に問われる倫理観
も掘り下げて考える必要があるでしょう。
③送還拒否による罰則
改正案では、
送還を拒否する外国人は
1年以下の懲役もしくは20万円以下の罰金
を科せられることになっています。
本来、外国人をサポートする立場の
親族や弁護士が、
罰則をおそれるあまり、
適切な監理サポートができないリスク
が懸念されています。
これら3つの背景に加えて
廃案が決定的となったのは、
収容施設内でのスリランカ人女性の死亡事件
でした。
スリランカ籍のウィシュマ・サンダマリさんは
2017年に留学VISAを取得、
日本に入国しましたが、
日本語学校を除籍後に所在不明になり、
不法残留者として扱われました。
その後、
2020年8月に静岡県の交番に出頭し、
収容施設に収容されたのですが、
収容後は体調不良を訴えて
仮放免申請をしたものの、
出入国在留管理庁は逃亡の可能性から
仮放免の申請を拒否、
結果、ウィシュマさんの体調が悪化し
亡くなってしまったのです。
この事件は
ニュースとして大きく取り上げられ、
出入国在留管理庁の対応に問題があると
大きな批判を集めました。
本来であれば、
原因究明を明確におこなうべきであるところ
それがなされなかったために
同庁に対する不信感が高まり、
結局改正案は廃案となりました。
※毎日新聞の記事
【再度訪れた改正のチャンス】
ご紹介しましたように、
現行の入管法は、
日本の在留や就業を希望する外国人にとって
ハードルが高く感じられる法律であり、
改正案からも、
不法就労者に対する政府の厳しい姿勢が
十分に確認できます。
しかし、その一方、
日本では加速する少子高齢化の波と
生産人口の減少から
慢性的な人手不足に陥っている業界が相次いでいる
という社会情勢もあることも、事実です。
国は再度改正の調整をはかり、
2023年1月に入ってから
入管法の改正法案が再提出されました。
改正法案は、
在留が認められる外国人の適切な判別
在留が認められない人の迅速な送還
長期収容の解消&より適切な処遇の実施
という3つの考え方をベースに、
昨年廃案となった内容の一部を修正した形で、
①在留特別許可申請手続きの適切化
②難民に準じた
外国人保護手続きルールの新設
③難民認定手続き中の送還停止の例外措置
④送還拒否外国人に対する命令措置
⑤退去強制事由外国人における
自発的出国促進措置
⑥監理措置ルールの創設
⑦仮放免要件の見直し
⑧収容における処遇実施のための措置創設
といった方策が掲げられています。
<出入国在留管理庁:改正案の概要>
【解消したい難民不安】
昨年、
不法残留者の人権が保護されないとみられ
廃案となった入管法改正案。
今回も改正案が再提出されましたが、
長期収容の解決する方法など、
解決の糸口につながるまで
まだまだ道の途中であると思われます。
改正の効果を期待する指標のひとつとして
難民認定率をあげることができます。
国が公表している難民認定率は0.7%。
認定数が多かった過去年でも1%前後
にとどまり、
上昇の兆しが薄いのが現状です。
ちなみに、
全体のおよそ半分にあたる難民申請が、
リピート申請であった
ということも確認できています。
近年の世界の難民認定状況と比べると、
日本の難民認定率は
世界的に見ても低い状況です。
<2021年度:先進国の難民認定状況>
いずれにおいても、
日本で生活する私たちにとっては
不安材料となる一方、
どのような立場の
どの国の人であっても
人権は守られるべき
と考えます。
浮き彫りとなった
これらの問題を解決するためには、
今後も前向きな議論を重ねていき、
入管法がよりよいものになっていくこと
が必要不可欠と考えます。
【改正は現在進行形】
外国人の受け入れにおいて
従来から叫ばれている課題を解決するため、
今回再提出された、入管法改正法案。
これまでも様々なVISAが創設されたり、
受け入れ体制についての姿勢
をより良い方向に示すべく
何度も改正がなされてきました。
今回の改正案もまた、
課題点がすべて解消されるかどうかは
未知数といえます。
改正となった場合は、
在留外国人だけではなく、
受け入れる企業や団体だけでなく、
私たち国民への影響も大きいでしょう。
現在、改正案の内容は
国会内でも活発な議論がなされていますので、
今後の方向性について、
WINDS行政書士事務所も
引き続き注視していきたいと思います。