【建設業の未来を照らす】建設キャリアアップシステム
2023.02.22[行政書士・業務]
【建設業界にメリットしかない制度】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
皆さまは
建設キャリアアップシステム(CCUS)
という制度をご存じでしょうか。
建設業界で活躍する皆さまにとって
現場を適切に管理することができる
非常に有益な仕組みです。
建設業界の健全化をねらいとして
すでにスタートしているこの制度は
今や建設現場ではたらく外国人のVISAにも
大きく影響するようにもなりました。
CCUSの概要やメリット、
登録内容などを確認しましょう。
【建設キャリアアップシステム(CCUS)とは】
建設キャリアアップシステム(CCUS)
とは、
建設業に携わる技能者が
現場作業での就業実績を
適正に評価されるために
国が推進している仕組みで、
Construction Career Up System
の略称となっています。
建設現場ではたらく技能者は、
さまざまな現場でおこなわれる作業を
実際に見て、身体を動かして
経験、実績を積んでいく
のが、ほとんどです。
そうした作業現場の管理や後進の指導
をふくめた従来の労働環境下では、
技能者が持つ能力の評価が統一されにくい
もので、
3K(きつい・きたない・危険)
との世間の評判
も重なって、
業界全体の人手不足
離職率の高さ
の一因となっている課題がありました。
そこで、
労働環境の改善や
コンプライアンス問題の解決など
建設業界の健全化を目的に、
一般財団法人建設業振興基金
が運営主体となり
2019年4月から運用スタートしました。
この仕組みを導入することによって
技能者の処遇改善
技能者のキャリアパス
施工能力の見える化
が可能となり、
次世代の技能者レベルアップ
事業者の効率的な営業
も、大いに期待できます。
<建設業振興基金:CCUSの目的>
【国土交通省攻めの推進】
CCUSの加入は現在、
任意とはなっているものの、
国土交通省は
2023年度から
あらゆる工事でCCUSを完全実施
とする施策を打ち出すなど、
CCUSは国の肝いり施策
として位置づけられています。
自治体を通して
できるだけ多くの技能者や事業者に
CCUSの利用を強くすすめている
ケースも増えていますので、
今後ますます導入が増えると予想します。
ちなみに、2021年10月現在では、
全国で70万人の技能者が
CCUSに登録しています。
<建設業振興基金:建設業3Kに向けた取り組み>
<建設業振興基金:女性の定着促進に向けた行動計画>
【大き過ぎる!CCUS登録のメリット】
CCUSを利用することによって
建設業界の事業者、技能者
両方にとって
たくさんの大きなメリットがあります。
メリット①技能者の待遇アップ
CCUSに登録すると、
まず技能者ごとに
キャリアアップカードが発行されます。
技能者の技能レベルは
保有資格や能力、実績に応じて
見習いから登録基幹技能者
まで4つが設定されています。
<建設業振興基金:CCUSの4種レベルと評価>
キャリアアップカードも
これら技能レベルに応じたものを
配付されます。
雇用する事業者としては
技能者が持つカードに応じて
賃金アップや待遇の改善
に取り組むことができ、
技能者の適切な管理を対外的にアピール
することによって
クライアントからの信頼
も得やすくなるでしょう。
メリット②技能者キャリアの見える化
従来の
技能者が自分自身のキャリアを
誰にもわかる形で証明することが
非常に難しい状況は
CCUSを利用することで解消されます。
技能者はキャリアアップカードを使って
評価団体が定める評価基準に基づいて
技能者情報としての
各現場の就業履歴が随時アップデートされ、
技能者自身もまた確認することができます。
さまざまな現場に移動して
各現場の作業に追われる技能者が
自分の実績をはっきりデータで確認できる
ようになるということは、
これまで積み上げたキャリアを
対外的にも証明でき、
ひいては
技能者が受ける適正な評価や
転職活動にも役立ちます。
<建設業振興基金:建設技能者の処遇改善>
メリット③共済金への充当
建設業界では、
建設業退職金共済(建退共)
という
建設業従事者のための退職金制度
があります。
この共済制度は
対象の技能者が作業した現場で
証紙を受け取り、
その証紙を共済手帳に貼り付けて
退職時に提出することで、
その証紙数に応じた額の退職金
が支払われるものです。
<建退共・CCUS適用民間工事標識シール>
<建退共に使用する共済証紙>
従来の建設業界は
多重下請けの体質が根強く
就業実績に応じた
証紙の発行や受領が正確におこなわれにくい
という課題がありました。
そこで、
CCUSに蓄積される技能者就業実績データを
この共済利用に活用できます。
ちなみに、
CCUSの建退共掛金充当への活用は
今年2023年をターゲットに
原則化となる予定です。
メリット④事務作業の効率アップ
事業者は建設現場の整備において
作業員名簿や施⼯体制台帳
などを作成しますが、
CCUSの利用によって、
このような出⾯管理がすべてIT化され
書類の⾃動作成、ペーパーレス
が実現できます。
おのずと、
社内事務作業の負担も大幅に軽減でき、
効率的かつ正確なオペレーションが実現
します。
メリット②で説明しましたように、
技能者の就業実績データも反映されますので
社内で確認すべき賃⾦や代⾦の⽀払根拠も
はっきりわかるようになり
メリット③の共済金関連事務の省力化
にもつながりますね。
メリット⑤信頼できる下請け業者の選定
事業者の立場としては、
元請業者が
下請けに出そうとする事業者の情報や
そのもとで働く技能者の稼働状況を
リアルタイムに閲覧できる
ようになります。
初めて依頼する下請業者の能力や
その業者が雇⽤する技能者の保有資格も
把握できるので
安心して下請業者に施⼯作業を任せられる
ことになります。
※稼働現場以外の就業履歴
については、
技能者と所属する事業者の同意
を条件に、情報開示が可能です。
【CCUS未登録者を待ち受ける暗雲】
事業者が
CCUSへ登録しない
という選択肢をとるとすれば、
次のようなデメリットがあげられます。
①経営事項審査加点の限界
2021年4月より
年CCUSの登録をおこなわない場合、
経営事項審査における加点評価の対象外
となってしまうルールが追加されています。
経営事項審査とは
公共工事の入札に参加する建設業者の
経営状況や規模などの企業力を
点数評価する審査です。
公共性のある施設や工作物の公共工事を
国や自治体などから直接請け負う建設業者は
必ず経営事項審査を受けなければなりません。
※建設業者や私たち行政書士の間では、
略して経審(けいしん)と呼んでいます。
<国土交通省:経営事項審査>
この審査において、
建設事業者がCCUSに登録していれば、
経営事項審査の加点項目である
技術者レベルの4段階評価の対象となります。
<国土交通省:経営事項審査基準改正>
②公共工事受注への影響
国が公共工事の発注をしたいとき
最近では
CCUSの導入事業者を優遇
する傾向があります。
また、
公共工事でない場合であっても
建設作業の発注案件として
この審査で得た一定点数を公募条件とする
ものも見られるほど、CCUSの登録は
現在の建設事業者において重要な評価ポイント
となっており、
登録いかんでは
公共工事の受注数やクオリティにも影響
するといえるでしょう。
③工事案件の発注選定から外れるリスク
国から事業者への強いはたらきかけ
によって
建設キャリアアップシステムへの登録が
広がっているところですが、
現在は
元請業者から下請業者へも
CCUSの登録を推奨する
ことも多くなりました。
もし、
下請業者がCCUS未登録事業者であれば
元請業者はCCUS登録済みの事業者に
発注先を切り替える
ということもあるかもしれません。
反対に解釈すれば、
下請業者であっても
CCUSの導入によって
競合他社から
自社発注にしてもらえるなどの
ビジネスチャンスが広がる
ことになります。
④多大な事務作業負担
CCUS未導入の事業者は
その事務作業負担は大きくなる
でしょう。
自動的に書類作成できる
CCUSを導入していないことで
作業員名簿の作成や確認を
自力で必要の都度作成しなければならず、
作業人員や時間を
増やさなければならなくなります。
ちなみに、今後、
CCUS登録の義務化がスタートすれば、
直後の申請から登録完了までの期間は
3か月前後と立て込むであろう
との見込みも出ています。
⑤技能者確保の不安
技能者の評価を公平化できるCCUSを
導入しないということは、
技能者の評価を
適正におこなうことは難しくなる
でしょう。
技能者としても
自分自身の就業実績が
分かりやすく確認できなかったり
公平に評価してもらえない
ようであれば、
安心して事業者のもとで仕事ができない
などの不安になったり
不平不満の噴出
作業へのモチベーションダウン
につながるかもしれません。
【外国人VISAにも関係するCCUS】
CCUSは現在、任意登録ではあるものの、
事業者が外国人の
技能実習生
特定技能者
建設就労者
を受け入れる場合は、
例外的に登録必須となっています。
技能実習制度が運用スタートして以降、
建設業における外国人技能実習生に
失踪者(行方不明)が非常に多く出ている
ニュースは、現在もにぎわせています。
この事態を受けて政府は、
技能実習における
労働環境(給与変動・就労現場の管理)
が問題で
CCUSの登録義務化によって
より適切に労働管理をおこなうことが重要
との見解を示しており、
CCUSを活用した早急な対策を目指しています。
【建設キャリアアップの利用手順】
技能者と事業者は
次の手順でCCUSを登録、利用します。
<CCUS現場運用マニュアル:システム全体フロー>
まず、
技能者は基本的な本人情報や保有資格など
事業者は商号や所在地、建設業許可情報
などを登録します。
以下のフローチャートは
事業者が最初に事業者登録するパターンですが、
登録の順番は
事業者と技能者、どちらが先でも可能です。
<CCUS現場運用マニュアル:技能者と事業者の登録>
元請側事業者がおこなう
作業現場や契約の登録においては、
開設する現場や作業内容、契約情報
を登録します。
<CCUS現場運用マニュアル:現場・契約登録>
下請側事業者が中心でおこなう
施工体制の登録においては、
元請事業者が登録した作業現場情報に対して、
自社に所属する技能者情報を登録します。
<CCUS現場運用マニュアル:施工体制登録のながれ>
登録後は
技能者の就業履歴インプットします。
技能者は
工事の現場に入場時に
元請事業者が設置したカードリーダーに
キャリアアップカードをかざして
就業情報をインプットし、
このように日々の就業実績が
蓄積されていき
事業者からも技能者からも
就業経験が見える化されていきます。
※作業現場へのカードリーダーの設置は
現場開設者である元請業者がおこないます。
<建設業振興基金:CCUSワークフロー>
【今年度いよいよ義務化!導入を!】
これからの建設業において
欠かせない仕組みとなる、
建設キャリアアップシステム。
技能者のスキルや経験の見える化で、
技能者のブラッシュアップをバックアップ
できるだけでなく、
事業者の事務作業や営業力アップなど、
そのメリットはあふれるほどです。
また、今年度よりスタートする
完全実施義務化の計画もあり、
実際に
公共工事の入札加点に活用する自治体
も出てきているなど、
官民一体となった施策を
今後も打ち出される予定ですので、
今後の建設現場には欠かせないシステム
といえるでしょう。
建設業で
CCUS未登録の事業者さまや
外国人技能実習生の受け入れを
ご検討中の事業者さま。
今後の事業展開に活かすべく、
是非、本コラムをご覧になられたこの機会に
登録を検討されてみてはいかがでしょうか。
WINDS行政書士事務所では、
CCUSの導入に伴う申請や登録、
またその前後で発生する
建設業やVISAにおける申請など
幅広くサポートいたします。
義務化となるその前に、是非ご相談ください。