コラム

【民法改正】(木の枝切除OK!)相隣関係ルールの見直し

2023.03.29[契約]




【4月から!法律改正ルールスタート】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
近年、所有者が不明の土地が増加しており、
該当する土地の利用において
ご近所への悪影響が社会問題となっています。
国土交通省の調査によると、
所有者が不明の土地は国土の約20%以上
といわれ、
不動産取引や管理業務を行う際の
さまざまな弊害事例も少なくありません。

<国土交通省:平成28年度地籍調査より>


これらの問題の解決や
スムーズな土地利用を目的として、
民法が改正され、
新ルールがいよいよ4月1日から有効
合わせて不動産登記法も改正されます。

所有者が不明となっている土地の管理
においては、気になる点のひとつとして、
その土地からお隣の境界まで伸びた
木の枝の対処

が従来からよく取り上げられてきましたが、
改正ルールにも
この点がきっちりとフォローされています。

こっちの敷地に伸びてきた枝は
勝手に切ってOKなの?
切れるとしたら
どんなことに気を付けた方がいいの?


こうした疑問を解消すべく、
改正ルールや注意点を解説したいと思います。




【相隣関係とは?】

相隣関係とは、
民法という法律ルールで定められた関係
で、
自分たちの生活の利便性向上などを
目的として
隣り合って住んでいる者同士が、
所有するそれぞれの土地を
利用しやすいように調整し合う関係
です。

この関係上、
隣り合う土地を隣地
所有する土地の調整などのため
一時的に隣地を利用できる権利を
隣地使用権と呼びます。
※隣地使用権の典型的なケースとして、
 所有する土地にある建物の外壁工事
 などがあげられます。





【法改正で見直される隣地使用権】

4月スタートの改正ルールは、
まずこの隣地使用権が見直されます。

これまで隣地使用権が認められてきたのは、
境界or境界付近において
障壁or建物を
建造or修繕のために
必要な範囲内

だけに限られてきました。
※土地ではない住家については、
 その居住者の承諾がなければ
 立ち入ることはできません。


また、肝心の、
隣地使用権の行使方法については
具体的に定められていませんでした。


4月からの改正ルールでは、
まず隣地使用権の範囲が拡大され、
次の場合に隣地使用権の行使が認められます。



なお、隣地使用権の行使時には、
隣地の所有者や現在の隣地使用者のために
もっとも損害が少ないもの

を選ばなければならず、
実際に隣地を使用する際は、
使用目的や日時場所、
方法を隣地所有者・隣地を
現在使用する者に事前に通知

し、
通知する相手方が準備OKとなり得る
合理的な期間を置く
必要があります。
※事案によりますが、緊急性のない場合、
 合理的期間は通常2週間程度とされます。


ただし、
事前の通知が困難なときは
隣地使用開始後、遅滞なく通知

すればOKです。

ちなみに
隣地を使用して
隣地所有者や隣地使用者に
損害が発生した場合は
償金を支払わなければなりません。

​​
民法第209条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第233条第三項の規定による枝の切取り

2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない
3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
4 第一項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。




【ライフライン設備の設置・使用権の創設】

電気、ガス、水道などの
現代的ライフラインと認められる設備
もはや私たちの生活に
必要不可欠となっています。
ライフスタイルの変化や技術の発展にともない
ライフライン設備を
自分の土地で使用するために
他人が所有したり使っている土地や設備を
利用しなければならない

といったシチュエーションも増えてきました。

現行の民法では、
低地の通水ルールは設定されていますが、
現代的なライフラインの設置に関しては
まだ明確になっていませんでした。


高地の所有者は、その高地が浸水した場合にこれを乾かすため、又は自家用若しくは農工業用の余水を排出するため、公の水流又は下水道に至るまで、低地に水を通過させることができる。この場合においては、低地のために損害が最も少ない場所及び方法を選ばなければならない。(民法第220条)

そこで、改正ルールでは、
現代的ライフラインを
設置、使用できるようにするため

次の2つの権利が明確になりました。



こうした権利を行使できるのは、
他人が所有する土地に設備を設置しなければ
現代的なものを含むライフラインの供給
そのほかこれらに類する
継続的給付を受けることができない場合

だけです。

対象の設備は、
電気
ガス
水道水
上記3つに類する継続的給付に必要な設備

となります。
※下水道利用も、これらに該当します。

また、
ライフライン設備の設置や使用場所、方法は、
ほかの土地または他人所有の設備のために
損害が最も少ないものを選択

しなければならず、
設備の設置・使用権を行使時に
ほかの土地の所有者または使用者に
事前に通知
しなければなりません。
※使用したい土地の所有者が
 所在不明の場合は、
 公示の方法による通知が必要です。

 (民法第98条)

通知からライフライン設備設置・使用
にいたるまでは、
通知の相手方が
その目的・場所・方法に鑑みて
設備設置・使用権行使に対して
準備をするために必要な合理的期間

を置く必要があります。
この期間は、事案にもよりますが、
2週間~1か月程度が一般的と考えられます。

土地の所有者が
ライフライン設備設置・使用権に基づいて、
ほかの土地等に設備を設置・接続する場合は
償金・費用を支払う義務
があります。

償金は、以下のものがあげられます。



民法第213条の2 土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付(以下この項及び次条第一項において「継続的給付」という。)を受けることができないときは、継続的給付を受けるため必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用することができる。
2 前項の場合には、設備の設置又は使用の場所及び方法は、他の土地又は他人が所有する設備(次項において「他の土地等」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用する者は、あらかじめ、その目的、場所及び方法を他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に通知しなければならない。
4 第一項の規定による権利を有する者は、同項の規定により他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用するために当該他の土地又は当該他人が所有する設備がある土地を使用することができる。この場合においては、第二百九条第一項ただし書及び第二項から第四項までの規定を準用する。
5 第一項の規定により他の土地に設備を設置する者は、その土地の損害(前項において準用する第二百九条第四項に規定する損害を除く。)に対して償金を支払わなければならない。ただし、一年ごとにその償金を支払うことができる。
6 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その設備の使用を開始するために生じた損害に対して償金を支払わなければならない。
7 第一項の規定により他人が所有する設備を使用する者は、その利益を受ける割合に応じて、その設置、改築、修繕及び維持に要する費用を負担しなければならない。





【越境した木の枝の取り扱い】

隣地所有権やライフライン設備設置・使用権
という2つの柱とならび、
越境する木の枝の取り扱いルールも
改正ルールがスタートします。

現行ルールでは
ある土地にある木の枝
境界を越えて隣の土地まで伸びた場合
隣地所有者は自分で切り取ることができず
木の所有者に切ってもらう
or
訴えで木の枝の切除を命じる判決を得て
強制執行手続き

をとらなければなりませんでした。

しかし、このルールでは
木の枝の切除において
元々の木の所有者が対応に非協力的
であったり
木のある土地の所有者が不明だと
切除のお願いをしようがない

などの問題点がありました。
また、
枝を切除する必要の都度
隣地所有者が訴えを起こすことも
救済を受けるための手続きとしては
負担が大き過ぎるのではないか

と言われてきました。

これを受けて、改正ルールでは、
木のある土地の所有者に
木の枝を切り取ってもらう必要性

をキープしつつも、
隣地所有者は、
次の3パターンのいずれかに該当
すれば、
たとえ
隣地が所有者不明の空き地であった
としても
枝を自分で切り取ることができる

ようになります。



①⽵⽊の所有者に催告後、
 相当期間内に切除しないとき

竹木の所有者に枝を切除を要求
したにもかかわらず、
相当期間内に切除しないときには、
隣地所有者は枝を切り取ることができます。



気になる相当期間ですが、
木の枝を切除するための必要期間として
2週間程度
が一般的な目安と考えられています。

②⽵⽊の所有者or所有者の所在を
 知ることができないとき

たとえば、
空き家に代表されるような
木のある土地の所有者が行方不明
建物の中屋や庭木が荒れ放題

といった状況で、
所有者調査をしてもわからない
所在を知ることができない

という場合にも、
隣地所有者は枝を切り取ることができます。
(民法233条3項2号)
こうした所在不明者には、
①のような催告は不要
です。



木のある土地の所有者を
どこまで調査すべきか

については
事情によって異なりますが、
現地調査に加えて、
不動産登記簿、立木登記簿、住民票
といった
公的記録を確認のうえ
調査をし尽くしても
竹木の所有者or所在を
知ることができなかった場合

にはじめて、この要件を満たすことになります。

③急迫の事情があるとき
たとえば、
台風によって木の枝が折れ
隣地に落下して建物を毀損するおそれ

があるなどの
差し迫った事情があるときに、
隣地所有者は
木のある土地の所有者に催告なしで
枝の切除が認められます。

(民法233条3項3号)


※木のが隣地に伸びてきた場合は、
 現行ルール通り、
 隣地所有者は自分で切り取ることができます。


改正民法第233条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
三 急迫の事情があるとき。

4 隣地の竹木のが境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。


隣地まで伸びてきた枝を切るのために
木のある土地所有者は
勝手に隣地に入っていいかどうか

に関しては、先ほど説明した
隣地使用権ルールが適用され、
越境した枝を切り取るのに必要な範囲で
隣地を使用することができます。



【枝の伸びた土地が共有名義の場合は?】

木の枝の越境した土地の名義が単独ではなく
複数人の共有名義の場合

というのも
十分にあり得るシチュエーションですが、
この場合でも、
枝が切除できる3つのシチュエーション
に応じたルールが適用されます。

まず、
越境された隣地所有者は
木のある土地の共有者で
判明している者全員には
木の枝の切除をするよう催告する

必要がありますが、
もしも共有者のひとりから
承諾を得られる見込みがあれば、
共有者全員でなくとも
そのひとりに対して催告し

そのうちの1人から承諾を得られれば
隣地所有者は共有者に代わって
枝を切り取ることが可能

となります。

催告の結果、もしも、
共有者から枝の切除を
承諾してもらえない場合


また、現行ルールでは
共有者全員から債務名義を取得
する必要がありますが、
所在不明の共有者に対する催告は不要
となります。

また、
共有者全員でなくとも
そのうちのひとりに対して
木の枝の切除を求める裁判を提起して
その切除を命ずる判決を得られれば

隣地所有者は
代替執行として木の切除が可能
となります。
(民事執行法171条1項、4項)

また、要件さえ満たせば、
隣地使用権を行使して
共有者の承諾を得ずとも木の切除ができます。


ちなみに共有者が
木の切除における積極的な妨害行為
をする場合は、

妨害行為除去のための債務名義は必要
となります。




【木の枝切除コストの請求】

木の枝を切り取るにあたって
発生コストの負担先も、
当事者にとっては悩みのタネ
となるのではないでしょうか。

これについては、
民法で規定されているわけないものの、
本来は
竹木の土地のある所有者が負担すべき
と考えられます。

この点、当事者としては、
次のような点について
十分に対策を検討すべきと考えます。



催告通知書は、
紛争防止はもちろんのこと、
最悪紛争まで発展してしまう場合も想定して
作成されるべき
ものです。

相当期間の具体的な設定
切除を必要とする理由
履行(=切除してほしい)時期
催告に対する回答がない場合の対応


などについて
相手方に伝わりやすく作成すべきでしょう。

通知方法は、
相手に確実に意思が伝わるように
内容証明などの活用をおすすめします。




【木の枝の切除における注意点】

現行ルールとくらべて、
改正ルールになると、
隣地まで越境した木の枝の処分がしやすくなる
ことがわかりましたが、
改正ルールがあるからといって
すぐに切っていいというわけではありません。
隣地所有者のアクションの時期や方法が
木のある土地の所有者に十分に伝わらないと

権利の濫用=違法行為とみなされて
対抗されてしまうリス
クもあるためです。

枝を切除するできる隣地所有者側としては、
次のような点に気を付けるべきでしょう。

①境界線
木の枝の切除においてはまず、
正確な土地の境界を把握すべきでしょう。
境界の確認を怠ったり誤れば、
境界線においての紛争となりかねません

ので、注意しましょう。

②切除後の枝の所有権
切り取った枝の所有権は隣地所有者が取得し、
その枝を自由に処分することができます。
ちなみに、
その枝に果実が付いていた場合も、
果実が枝を離れて
隣地に落下したかどうかに関わらず
同様に隣地所有者が取得する

と考えられます。

③切除の必要性
そもそも枝が越境したことによる
実際の被害が明確でなければ
木のある土地の所有者から
権利の濫用と受け取られ
無用なトラブルの原因
にもなりかねません。
実際にどのような被害が起こっているのか
または
起こり得るのかを切除前に明確にして、
催告通知書に記載しましょう。

④コミュニケーション
木の枝は、
越境して切除しなければならないほど
管理不全の状態まで放置すべきではない
と考えます。
これは法律的なアドバイスではないのですが、
やはりお隣同士、
日ごろからコミュニケーションをとって
良好なご近所付き合いを心掛ける

のも、なによりも強い対策となります。
木自体も定期的なメンテナンスがあれば
越境だけでなく、劣化や老朽化を防ぎ、
四季を彩ってくれ、
木も喜んでくれるでしょう。




【設置物や設備を含めた不動産の適切な管理】

民法の改正ルールは、
いよいよ今年4月からスタートし、
隣地から自分の土地に伸びてきた
木の枝の切除がしやすくなります。
ただ、
法ルールの十分な理解がないことで
切除対応や費用負担を拒否される
だけでなく、
権利の濫用による違法行為
と判断されかねませんので、
不動産上の設置物の管理にあたっては
適切な対応をふんでいく必要があります。

隣地まで越境する竹木にお困りの方は、
ご紹介した改正点や注意ポイントをご参考いただき、
事前知識とされてくださるとうれしいです。

WINDS行政書士事務所は
改正点を含めた法律ルールのご相談や
必要文書のドラフティング、リーガルチェック
といったサポートをさせていただいています。
お困りの際には、是非ご相談ください。