コラム

【なくなっちゃうの?!】技能実習制度のこれから

2023.07.12[VISA]




【技能実習が廃止って本当?!】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
今年に入ってから、
特定技能2号の対象業種が
大幅拡大となることが閣議決定され、
各業界で話題となりました。
※2号対象業種については、
 以前のコラムで詳しくご紹介しています。
 ⇒
こちら

これと同時に報道された衝撃的な内容が、
今回ご紹介する、

技能実習制度の廃止

で、政府が有識者をまじえて議論中
とのメディアニュースでした。
朝日新聞の報道

もし、技能実習制度がなくなれば、
日本で創設されたVISAの種類が
ひとつ消滅することになり、
その影響は、
実習生、実習機関や監理団体、
母国の送り出し機関まで
大きくおよぼすだけでなく、
日本産業における
外国人人材マーケットも変わります。

制度廃止議論にいたるまでの背景や
想定される政府のアクション、
今後の制度の見通しについて
現時点で分かり得る情報をもとに、
揺れ動く技能実習の今とこれから
を、解説します。




【技能実習の現在】

技能実習制度は、
日本が先進国としての役割を果たしつつ
国際社会との調和ある発展を図っていくため、
日本の持つノウハウやスキルを移転し
諸国の経済発展の有能人材育成
を目的として、
2016年11月からスタートしました。

技能実習の移行対象は
今年の春現在で87職種159作業にのぼり、
技能実習VISAを持つ外国人数は
就労VISAの中でトップ
をほこっています。




厚生労働省:外国人技能実習制度
OTIT:技能実習制度の職種と作業
※近年は、
 熱絶縁施工の保温保冷工事や
 ゴム製品製造の加工作業など
 が追加されました。





【表面化した技能実習の課題】

在留外国人の多くを占める技能実習ですが、

実習生の失踪、犯罪
実習機関である企業の賃金未払い
送り出し機関による保証金、高手数料徴収
謝礼を求めるブローカーの存在


など、
オペレーションのみならず
人権侵害にせまる事件や事故が
次々と報道で明るみになり、
「日本の技能実習は現代の奴隷制度だ」
などと揶揄する国も出てきました。
※外務省:技能実習制度に対する国際的指摘

こうした動きから、
昨年末から9回にわたって
有識者会議が開催されており
7回目の会議を終えた今年5月、
かわされた議論をまとめた中間報告書が、
法務大臣に提出され、
技能実習制度を廃止する方向性
初めて明確に打ち出しました。






【有識者の見解】

では、この有識者会議で
どのような意見がかわされ、
技能実習制度に
どのような影響を与えるのでしょうか。

政府の有識者会議は
外国人労働の在り方を軸として、
今後の技能実習や特定技能ルール
を考える目的で、
昨年末から7回も開催されてきたもので、
技能実習や特定技能ルールの今後
をうらなうたたき台

といった位置づけとなります。
会議でかわされてきた見解は今後、
今年の秋をめどに
最終報告書としてまとめられる予定です。

これまでかわされた意見としては、
次のようなものでした。






【予想!技能実習の今後】

もちろん、現時点で
技能実習は廃止が確定したわけではなく、
あくまで
有識者から政府に対する提言
に過ぎません。

が、これまで報道で
周知の事実となった事故や事件から
抱えている課題は一気に表面化し、
政府でも認識されているものと思われ、
政府への最終報告書の提出を経て、
来年以降からルールが変わる可能性が濃厚
です。

会議の中間報告書から、
今後の技能実習制度は
次のような見通しが読み取れます。

①技能実習制度の廃止
まず、報道された通り、
2016年から続いてきた
技能実習制度は廃止の方向に進み、
日本のVISAシステムから
技能実習VISAはなくなるでしょう。
ただ、
技能実習計画に基づいて
現在実習実施中の企業と実習生がいる

事実も踏まえると
即廃止は現実的ではありませんので、
単純に完全撤廃、ということではなく、
新たな制度としてリニューアル
廃止にあたっては
新制度への移行期間が設置される

と予想します。

②ルール改定
これまで課題とされてきた点を解消すべく、
新制度のルール策定にあたって
現行の技能実習ルールにもメスが入り、
すでに中間報告書であげられてきた
人材確保と人材育成が
今後は最大限考慮されたルール

となるでしょう。

私が予想するのは、

特定技能と技能実習の合体(=統一)
または
特定技能の類似制度(=特定技能研修生)
の創設


です。

特定技能を踏まえたルールにすれば、
企業にとっては
即戦力人材の確保が担保されるだけでなく
転職の自由度も高まります。
もうひとつ、人材育成の観点からは、
現行の技能実習制度を基本軸として整
すると予想します。

③技能実習機構のリニューアル
これまで
企業が技能実習をおこなうにあたって、
適正な実習実行実習生の保護
のため、
技能実習機構(OTIT)が設立され、
重要な役割を果たしてきましたが、
技能実習の廃止にともなって、
当然、
OTITは廃止または名称、役割変更
となるでしょう。
当然、これにともなう、
申請など運用手続きも変わることに
なるでしょう。

④新ルールのスタート時期
今年の秋に
有識者の最終報告書がまとまった後は
早ければ
来年の通常国会で関連法案が提出
されると予想します。

そうすると新ルールは、
法案提出と同時ではなく、
そこから施行までの一定期間をはさみ、
そうすると、
来年の秋冬
または
2年後の春あたりにはスタート

するのが現実的ではないかと、考えます。

現行の技能実習と
創設予定の新制度の概要を、
次のように比べてみました。
技能実習がどのようになっていくかは
今後徐々に明らかになっていく予定です。
まずはこの秋の最終報告書の内容を
確認していきたいですね。


※2024年春
 育成就労(仮)法案が閣議決定されました。
 
こちらのコラムでご紹介しています。



【新制度移行のメリット/デメリット】

そうすると、やはり気になるのは、
新制度になるのが
良いことなのか、悪いことなのか

ということですね。
私が行政書士としての目線で見た場合の、
技能実習廃止後に迎える新制度の
メリットとデメリットを考えてみました。

<メリット>
①外国人の長期雇用
人材確保と育成を掲げる有識者会議内容から、
今後は、
外国人人材の長期雇用を見越したVISA運用
が考えられます。
在留年数を重ねるにつれて
実習生によっては
キャリアプランを見直さざるを得ない
こともありましたが、
新制度ではこうした障害を
少しでもなくす可能性が高いです。

②高日本語スキルの人材獲得
現行の技能実習制度では、
日本への入国直後時点で
日本語をほとんど話せないと
いったケースも散見されましたが
新制度になれば、
一定水準の日本語能力が求められる
ことが濃厚です。
現行の実習対象職種にもよりますが、
スタッフ間やお客さま間で
日本語をフルに活用するような職種、
たとえば、
介護や飲食業、宿泊業などの現場では
高日本語スキルの外国人人材が
その価値を発揮するでしょう。
この改善点は、
各職種の現場にとっては、ありがたいですね。

③即戦力労働力の確保
②と並行して、
研修目的の実習生ではなく、
高度なスキルを持つ即戦力の外国人
を雇うことができます。
実習生の対応にもっとも手を焼くと言われる
日本文化や価値観のインプット
就労面でのOJTなど

がスムーズにおこなえ、
外国人雇用におけるストレスも低減
できるでしょう。

<デメリット>
①対象職種の限界
現行の技能実習制度で受け入れられる
職種の対象範囲は非常に広いですが、
中間報告書では、
廃止後の新制度では
対象職種を特定技能の12職種に合わせよう

との提言がなされています。
もしも
現行の特定技能ルールのままあてはめると、
新制度での対象職種は少し狭くなります。
この点、特定技能も過去に
コンビニやトラック運送など
対象職種追加要望の高さをうたう報道
がありました
ので、
特定技能の対象職種拡大は
今後も十分可能性が高く、

今後の特定技能ルールも
並行して注視していく必要がありそうです。
コンビニ業界の特定技能追加検討
トラック運送の特定技能追加可能性の報道

②給料水準アップ
廃止後の新制度では、
外国人へ支払う給料設定を
技能実習生よりも高い設定を求める

ことが予想されます。
スキル習得目的の実習生とは違い、
新制度上の外国人は
労働者として取り扱う意味合いが強まります。
当然、外国人へ支払う給料も、
日本人へ支払う給料と同等以上となる可能性
が高く、企業側は
さらなるコスト管理が問われるでしょう。

③退社、転職の可能性
原則転職NGだった技能実習の多くは、
現場での定着が見込め、
実習生が最低2号実習までの3年在留
を見越すことができましたが、
新制度では
転職がある程度自由となる扱いが濃厚で、
外国人が給与や待遇面に不満がある場合
退社や転職を求める可能性が高くなり

企業としては、
人材キープやキャリアプランを盤石にするため
待遇面を工夫しなければならないでしょう。




【監理団体の留意点】

これまで実習生と実習企業の間で
実習サポートをおこなってきた
監理団体(協同組合)も、
技能実習廃止によって
新制度がどのようなルールとなるか
見守りつつも、次の点は早めに
対策を講じるべきと考えます。

①申請手続き
今後新制度への移行で、現在運用中の
OTIT向け申請や届出の手続きフロー
は真っ先に変更有無を確認すべきでしょう。
現行ルールで作成してきた
申請、届出書類の保存期間
外部監査ルールも、
最新ルールに合わせていく
必要があります。
場合によっては、新制度スタート当初は
書類まわりの手続きの煩雑化も予想されます。

②対象職種ごとのフォローアップ
技能実習の対象職種が
そのままキープされる可能性は薄く、
先に説明した
特定技能職種との合体となれば、
監理団体としてオペレーション展開してきた
企業との連携の変化

監理団体によっては
休業、廃業を余儀なくされる

場合も予想されます。
特に、
対象外職種を取り扱う実習企業に対する
アフターフォロー

は欠かせないでしょう。
※2024年春
 育成就労(仮)法案が閣議決定、
 監理団体の立場も大きく変わります。
 
こちらのコラムでご紹介しています。


【外国人人材の在り方の転換期】

創設時から
さまざまな課題をかかえながら
運用されてきた技能実習制度は今、
大きく変わろうとしています。
廃止後に創設されるであろう新制度は
人材の育成確保と同時に、
外国人労働者のより手厚い保護
が大きな目的となりそうで、
人材不足と叫ばれてきた日本の労働力確保のため、
時代ととともに、外国人人材や企業経営の在り方
が問われます。
現行制度と同じ目線で運用しようとすると、
重大なトラブルやオペレーション不備
につながるので、注意したいところです。

WINDS行政書士事務所は今後も、
技能実習制度をはじめとする
VISAまわりの最新ルールや報道をチェックし、
外国人や企業さま、監理団体の皆さまを
強力にサポートさせて頂きます。
新制度移行や、
今後の申請サポートにおけるご懸念点など、
コンサルティング対応もおこなっております。
新制度移行まで時間のある今のうちに、是非ご相談ください。