コラム

【自社株の有効な管理へ】譲渡制限株式

2024.05.15[行政書士・業務]




【株の売買、譲渡をストップする株式会社】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
株式会社が保有する株式を
企業や個人に譲渡するという行為は、
その株式会社の経営権を移転することもあり、
当事者の合意や所定の手続きが必要ですが、
その譲渡自体を自由にすることもできれば
制限をかけることもできます。

もし、株式譲渡承認請求がされた場合、
その株式会社はどう対応すればよいでしょうか?
また契約書などに明記する場合、
どのように反映すればよいでしょうか?

こうした譲渡制限株式や該当する会社の特徴、
契約書などへの反映における注意点について
解説します。



【株式の「譲渡」と「制限」】

元々、株式会社が発行する株式は
企業や団体、個人などの保有者が存在します。

株式保有者は
原則、次のような権利を持つとともに、
誰でも自由に譲渡することができます。
これらの権限を行使することによって、
株式保有者の意思で
合併や分割、組織変更も可能
になり得ます。

株主は、その有する株式を譲渡することができる。
(会社法第127条)

株式譲渡自由の原則と呼ばれています。

会社経営の権限
発行株式の総数
持ち株比率

によって決定します。



もしも、
経営者にとって好ましくない株式保有者に
特殊な権限が付与され

自由に権利を濫用されたら、
会社のビジネスがスムーズに進まなくなる
おそれもあります。

発行株式総数の66.7%以上
 or
   2/3以上の株式

 を所有する株式保有者は、
 実質的に会社の経営に関与できるといえます。


そこで、
株式の取り扱いにおける原則ルールと同時に、
株式譲渡の制限も認める
という例外ルールも共存させて、
保有株式に紐付けられる権利の濫用を防止し
経営への悪影響がおよばないようにする

ことを目指しています。

株式会社は、その発行する全部の株式の内容として次に掲げる事項を定めることができる。
1 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
2 当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
3 当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができる
(会社法第107条1項)


したがって、
株主が保有する株式を誰かに売りたい場合、
株式を発行している株式会社は
それを妨げることはできない一方、
譲渡に制限をかけた場合は、
株主は
株式会社に確認のうえ手続きを経なければ
株式を自由に譲渡はできなくなります。

中小企業や家族経営中心とする企業
などは、
こうした株式譲渡制限を活用することで
投資家や企業に安易に買収されないように
することが可能となるでしょう。




【株式譲渡制限会社とは】

通常の上場株式などの場合、
株式会社に出資した株主は
その対価として株式を受けますが、
証券会社などを通して
手軽に株式の売買ができ、
譲渡先や売却先に制限はありません。


これに対して、
株式譲渡制限会社
とは
会社が発行している株式を
第三者に譲渡する際、
取締役会または株主総会などの承認を得るなど
株式保有者が自由に譲渡できないように
制限をかけ、それを定款で定めます。
後ほど詳しく説明しますが、
非公開会社と表現されることもあります。

株式譲渡制限会社の譲渡制限範囲は、
全株式にわたり、一部のみの株式とはならない
のが一般的です。
これは、
すべての株式保有者を明確にして
発行株式数と株主、その権限を把握できるため
という目的にあります。

株式会社は、譲渡制限をかけるかどうかによって、
公開会社と株式譲渡制限会社(非公開会社)
に分けられます。

ここでの公開とは、
株式が市場に公開されている
という意味ではなく、
株式の譲渡における自由度が高い
という意味をあらわしています。



公開会社とは、その発行する全部又は一部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社をいう。(会社法第2条5号)
※公開会社は上場している
 とみなされることがありますが、
 上場会社は
 株式取引所に自社株式を公開することから

 公開会社=上場会社とは限りません。
※株式の譲渡制限を定款で定めるためには、
 株主総会の特殊決議が必要となります。

株式譲渡制限会社になるには、
株式の譲渡取得において
取締役会または株主総会の承認
を受けなければならない
という規定を定款に加えます。

※会社の組織実情に合わせて、
 代表取締役による審査・承認が必要の旨
 定款に規定することも可能です。




【株式譲渡制限会社のメリット・デメリット】

株式譲渡制限会社は、
自社発行株の取り扱いを変えることから
メリットとデメリットが存在します。
それぞれ、解説します。

<メリット>


①役員任期の延長OK
会社の役員任期は、
取締役と会計参与の任期は2年
監査役は4年

と、法律によって定められていますが、
全株式を譲渡制限とすることで、
定款に定めることによって
その任期をそれぞれ10年まで延長
することが可能です。

②取締役会、一部役員設置不要
譲渡制限していない株式会社は、
取締役を3人以上
監査役または会計参与を1人以上

任命して、取締役会の設置が必要ですが、
全部の株式に譲渡制限をかけることで
そうした役員の設置を
を必ずしもしなくて済み
取締役が1名以上いればOKとなります。
また、取締役会自体も設置が不要です。

③取締役と監査役を株主に限定OK
公開会社では、
制限を条件を設定することができません。
しかし、全株式を譲渡制限することで、
株式会社は取締役や監査役などの
役員の任命条件に、株主であること
を定めることが可能です。
また、
譲渡制限がかかった株式は
売買の際に取締役会または株主総会の承認
を必要とします。
これを有効に解釈すると、
経営者をはじめとする大株主が
承認した者に株式を集中させ、
それ以外は株主にさせないということも可能

ということになります。
大株主が後継者を指定する際にも有効です。

④株主総会手続きの簡略化
原則として、株主総会は
開催日2週間前に書面またはメールにて
通知し召集なければなりません。
一方、株式譲渡制限会社の場合は、
開催日1週間前の通知で済み、
口頭での召集が認められています。
条件がそろえば
さらにその通知期限の短縮も可能です。

⑤計算書類作成スムーズ
株式譲渡制限会社であることによって、
計算書類の作成がスムーズになります。
たとえば通常
計算書類には19項目ほどの注記
を記載する必要がありますが、
株式譲渡制限会社は
この記載を半分以下に簡略化できます。


日本公認会計士協会:計算書類の注記事項の記載

⑥会社クーデター防止
株式会社の株式保有者は、
その株式保有数が多ければ当然、
会社に対する影響は高くなり、
株式保有率が50%オーバーとなれば、
取締役の選任や解任の権利を得られます。



つまり、
保有株式数を増やすことによって
会社を乗っ取るということも可能となります。
この予防策として、株式の譲渡制限が有効です。
これは
株式の相続移転への対応にも応用でき、
相続移転となった譲渡制限株式を、
相続人に売り渡す請求
ができます。

⑦後継者負担軽減
会社の後継者問題というのは、
どの企業にも関心の高いものと思われますが、
もし後継者が
発行株式の過半数を取得することになれば
取得費用に加えて、相続税や贈与税など、
金銭的負担がかかります。
株式会社が
後継者の発言権を担保できる程度の
株式を買い取ることによって
代金が後継者の納税資金となり、
株式の集中と負担のバランスをコントロール
できるでしょう。

⑧株式発行の自由度が高い

公開会社では自社株式発行の際、
発行済株式数の4倍までしか
発行可能数を設定できず、
発行された株券を遅滞なく発行する必要
があり、
株式譲渡制限会社では、
株主から株券発行請求がない場合は
株券の発行をしなくてもOK

と認められます。
また、
発行制限な株式を発行できます。



<デメリット>


①決算公告義務
株式譲渡制限会社は公開会社と同様、
利害関係者を含む一般公衆に対して
財務情報を開示する、
決算公告義務が発生します。
※決算公告義務を怠ることによる
 罰則規定(100万円以下の過料)があります。
 
法務省:電子公告

決算公告は、
官報、日刊新聞紙、ホームページなど
に掲載しておこないます。

②株式売渡請求
少数株主による権利の行使機会を奪い、
実質的に会社の経営に関与するため、
多数派株主が少数株主の保有する株式を
自分に売り渡すように請求し、
強制的に買い取るという動向もあり得ます。
※Squeeze Out(スクイーズ・アウト)
 と呼ばれます。

しかし株式売渡請求は
相続人以外の株主の賛成票を集め、
株主総会による議決が必要になります。
メリットのひとつとして、
会社クーデターの防止をご紹介しましたが、
株式売渡請求の対象株主は選ばれません。
つまり、
経営者の後継者に対して
株式売渡請求を行使することも可能

と言えます。

たとえば
株式譲渡制限会社の経営者が、
後継者に指名した親族に株式を相続させたくても、
ほかのある株主が株式売渡請求を行使した結果
その議決に影響を持つ存在となり、
その相続を拒否した結果、
後継者に株式売渡請求権が行使され
後継ができなくなるというおそれも否めません。

③株式買取請求権
②の可能性と同様に、
株式買い取り請求権行使の可能性もあります。
譲渡制限株式を譲渡する場合には
株主総会や取締役会の承認が得られれば
譲渡が成立できることから、
株主総会や取締役会での総意に近い場合は、
譲渡制限株式であっても
株式譲渡制限効力が見込めなくなってしまいます。




【株式譲渡制限会社に関するQ&A】

これまで株式譲渡制限会社のサポートの際、
私が行政書士の立場で
お客さまからよく受けてきた質問を
Q&A形式でご紹介します。

Q1. 譲渡制限会社と株式譲渡契約を結ぶ予定。
    どんなことに気を付ければいいの?

A1. 会社の情報を事前に確認しましょう。
株式譲渡制限会社から株式の譲渡を受ける場合、
株式譲渡契約を結ぶのが一般的です。
定款や登記簿
株式譲渡契約書(SPA)

などに目を通して、
次の点を事前にチェックされるのが良いでしょう。



Q2. 実際の譲渡の際、なにをすればいいの?
A2. 会社の承認を得るアクションが必要です。
株式譲渡制限会社が規定する、
取締役会または株主総会の承認を得ましょう。

一般的には、
譲渡人が会社に
株式譲渡承認請求
をおこない、承認を得ます。

もし、会社が譲渡を承認しない場合は、
会社または会社が指定する者が
株式の買取請求権を行使できます。
最終的に株式譲渡にいたる場合は、
譲渡人と譲受人との連名で、
株式譲渡の旨を届け出て
株主名簿に
新株主名義であることの書き換え

を請求します。

Q3. 株式会社から受けた譲渡承認は
  どう形に残すの?

A3. 株式譲渡契約書に残しましょう。

株式譲渡制限会社から譲渡承認が得られた場合は
株式の譲渡人と譲受人間で
株式譲渡契約書(SPA)に反映します。

残念ながら不承認となった場合は、
不承認決議から2週間以内に
会社から譲渡人に対してその旨が通知されます。

Q4. 会社または指定買取人から
  買取通知があった場合の注意ポイントは?

A4. 売買契約解除とならないよう留意しましょう。

発行会社が株券発行会社の場合、
会社または指定買取人から
供託事実を証する書面を受け取り、
書面受領から1週間以内

株券を供託して
遅滞なく会社または指定買取人に通知します。

この通知を得ることで
会社または指定買取人からの
売買契約の解除を避けることができます。




【譲渡制限におけるルール理解でトラブル回避】

非公開会社との別名を持つ株式譲渡制限会社は、
会社が発行する株式に対して、
自由に譲渡できないように制限をかける会社です。
この会社が発行する株式の譲渡を受ける場合は、
会社の承認や、会社に直接買い取ってもらうなどの
対応を必要とします。
株式保有者も株式会社も多くの恩恵を受けられます
ので、
会社の株式譲渡制限の目的や譲渡成立するまでの
一連の手続きをと理解したうえで、
適切に活用していきましょう。

WINDS行政書士事務所では、
法人設立や運営にまつわる
さまざなサポートを展開し、
事業者の皆さまをバックアップしております。
株式譲渡制限においても
カウンセリングをおこなっておりますので
どうぞお気軽にご相談ください。