【2024年11月施行!!】フリーランス新法
2024.08.21[契約]
【理不尽な取引からフリーランスを守れ!】
こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
コロナ禍を経て
多様な生活と価値観が認知されている現在、
私たちの働きかたも多様になりました。
それら働き方のひとつとして増えているのが、
フリーランスです。
取引先が、またはもしかするとご自身が
フリーランスとして働いている方も
いらっしゃるのではないでしょうか。
日本におけるフリーランス人口は現在、
本業だけでなく、副業などを含めると
1,500万人をオーバーしている
と言われています。
<ランサーズ社:新・フリーランス実態調査>
※フリーランスの定義は
店舗や屋号の有無、専業か副業かによって
異なります。
⇒内閣府による定義
こうした流れのなか、
フリーランスが
安心して安定的に活躍できる環境の整備
が求められるようになりました。
これを具現化すべく
今年の秋からいよいよ施行されるのが、
フリーランス新法です。
この法律で定められていくルールや、
実際の契約における重要なポイントを
リーガルチェックのプロが徹底解説します。
【法律上立場が弱い「フリーランス」】
フリーランス新法を知るうえで
非常に重要なのが、
フリーランスの定義でしょう。
この法律で定義されるフリーランスとは、
特定の企業や組織に所属せず
独立して業務の委託を受ける事業者
を指します。
委託、という名目で仕事をするものの
その実態は
委託ではなく、下請
であることもあるかもしれません。
※委託と請負の明確な違いについては、
以前のコラムで詳しくご紹介しています。
⇒業務を「委託する」
⇒事業者とフリーランスの契約
フリーランスは
移動や就業場所、時間などにおける
柔軟な対応が可能
自己実現しやすい
といったメリットがあり、
市場拡大の傾向も高くなっている
反面、
業務委託事業者からの一方的な
不利な契約条件の提示
契約破棄や条件変更
報酬の支払いの遅れ
などのトラブルに巻き込まれ、
法人間の取引に比べると
契約上の不利益を被る
といったことも、事実としてあります。
こうした不利益が発生する背景としては、
フリーランスが
個人で事業収入を得る存在として
労働基準法上労働者とは認められず
労働関係法令の適用外
となっているためです。
※独立して自律的な立場にあるはず
のフリーランスの中でも、
労働者と変わらない条件で仕事をする
状態を偽装請負、
該当する業務受託者を偽装フリーランス
という状態も発生しています。
⇒東京労働局:あなたの使用者はだれですか?
ビジネス上弱い立場にある
フリーランスが適正に取引できるように、
フリーランス市場が拡大している
今をきっかけに、
その労働環境の整備が急がれていました。
2020年7月17日に閣議決定された
成長戦略実行計画では、
フリーランスの環境整備のために
ガイドラインの策定が示され、
加えて2022年6月7日に閣議決定された
新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画
では、
フリーランスの取引適正化のための法制度
について検討、国会に提出されました。
これらが正式な法律として形になるのが、
フリーランス新法
となります。
【11月施行!フリーランス新法とは】
フリーランス新法とは、
働きかたの多様化の進展に鑑みて
フリーランス事業者が
安定して受託業務に従事する
ことができるよう
環境整備を目的とする法律
で、正式名称は
特定受託事業者に係る
取引の適正化等に関する法律
と言います。
※「フリーランス保護新法」
とも呼ばれています。
⇒e-Gov:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
この法律は
昨年2月24日に通常国会に提出、
同年4月28日に成立し、
いよいよ今年11月1日より
施行(ルール本格スタート)
となります。
この法律に即した詳細ルールについては
細則や規則などが今後制定される予定で、
11月の施行までに
公正取引委員会や厚生労働省からの
発表が待たれるところです。
委託事業者がフリーランス新法に違反する場合、
履行確保措置として
公正取引委員会&中小企業庁長官、厚生労働大臣
による
助言や指導、報告徴収・立入検査
などがおこなわれ、
これらに対する命令違反や検査拒否
などあった場合は
50万円以下の罰金に処せられることもあります。
委託事業者が法人で
その従業員が新法違反行為をおこなえば、
従業員も法人も罰則対象
となりますので、注意しましょう。
<公正取引委員会:フリーランス・トラブル110番>
※行政指導については、
以前のコラムで詳しくご紹介しています。
⇒こちら
<制定目的>
フリーランス新法は、
ビジネス取引上
法人に対して立場が弱くなりがちの
フリーランスの労働環境改善
多様な働きかたへの柔軟な対応
を目的としています。
<公正取引委員会:フリーランス新法の目的>
さらに、
罰則の規定も設けることによって
フリーランスの保護における実効性
も高めています。
<関係者>
フリーランス新法で
保護される対象者は
フリーランス=特定受託事業者
そして適用対象者は、
そのフリーランスの取引先となる
特定業務委託事業者
となります。
フリーランスかどうかは
事業者からの委託の有無
従業員の有無
で分かれます。
個人であれ、法人であれ、
従業員を雇っている事業者は
フリーランスとは定義されません。
しかし、
雇っているその従業員が
短時間・短期間で一時的な存在
であれば、
フリーランス新法における
従業員の定義からは外れ、
その雇用者はフリーランスとみなされます。
※従業員の雇用については、
組織としての実態が判断基準とされます。
<対象取引>
フリーランス新法の対象取引は、
委託事業者⇔フリーランス間(BtoB)
の
委託業務
です。
一般消費者からの受託
売買のような不特定多数の人向けのビジネス
(BtoC、CtoC)
は、対象外となります。
<既存法律との関係>
原則、
フリーランスには労働関係法令が適用されませんが、
契約スタイルに関わらず、実態から判断して
労働者と認められる場合は、
労働関係法令が適用されることもあります。
フリーランス新法の公布以前からも
もちろんビジネスや取引に関する代表的な法律が
フリーランスと事業者間の取引全般において
適用される独占禁止法
また、
発注事業法人の資本金が一定金額以上の場合に
適用される下請法
でしょう。
これらの法律で特に注意すべきなのが、
優越的地位の濫用規制
発注時取引条件の明確化
です。
フリーランスガイドラインには、
既存法で定義される
労働者にスポットライトをあてて
フリーランスと取引する事業者
フリーランスと発注事業者のマッチング事業者
が遵守すべき事項や
法令違反となる具体的な行為類型
を明記しています。
<公正取引委員会:フリーランスガイドライン>
※フリーランスとして安心して働ける環境を 整備するためのガイドライン
【特定業務委託者の7つの義務】
フリーランスが不当に扱われず
契約業務に安心して取り組めるように、
委託事業者に対して次の義務を定めています。
①取引条件の明示
発注事業者は
フリーランスに業務を委託する際
契約条件を書面またはメールで明示
しなければなりません。
フリーランス間の受発注の場合でも
この義務項目は適用されます。
※メール明示後
フリーランスから書面交付を求められた場合、
原則、
遅滞なく書面での交付することが必要です。
具体的な明示事項は、次のものです。
もちろん、これら以外にも、
明示事項が具体的で多ければベターでしょう。
②報酬の支払期日
従業員を使用する委託事業者は
原則、フリーランスから
成果物の受領、検品終了後60日以内に
できる限り早く
報酬を支払わなければなりません。
たとえば、委託事業者の会計処理が
当月末締め&翌月末払いであれば
この義務事項を守られますが、
当月末締め&翌々月15日払い
などの場合は
報酬の支払いまでMAX75日かかるためNG
となることに、注意しましょう。
ちなみに、
契約スタイルが再委託の場合の支払期日は、
事業者が発注者からの支払いを受けた日から
30日以内にできる限り早く
となります。
なお、
フリーランス間の委託は
この義務事項適用外の取引
とはなるものの、
報酬の支払いはいつでもOK
という定めにするのではなく、
ビジネス上の信頼関係キープの観点から、
できる限り早く支払うことが望ましいと考えます。
③禁止事項の遵守
委託事業者は
1か月以上の業務委託契約を結ぶ
フリーランスに対して
次のような扱いを禁じられ
フリーランスの利益を不当に害してはなりません。
いずれも、
発注事業者の一方的or不当な理由によって
フリーランスが不利益を受けないためです。
対象取引は
政令で定める期間以上に行う業務委託
に限られます。
1か月以上も業務を委託することになれば
まさに委託事業者の社員も同然
と扱われるという意味合いでは
納得できるルールですね。
④的確な募集情報の表示
委託事業者が
業務委託先を募集する場合、
クラウドソーシングサイトやSNS、広告
などさまざまなツールが活用できますが、
こうしたシチュエーションにおいても
募集情報は
常に正確かつ最新のもの
としなければならず、
次のような、
虚偽内容や誤解を招く表示は
禁じられています。
ただし、
契約当事者の合意があったうえで
当初の募集情報からの取引条件変更は
法律違反とはなりません。
⑤育児や介護との両立に対する配慮
労働関係法令の適用対象外となる
フリーランスの労働環境は
時に過酷となることもあります。
そんな立場に寄り添うように
フリーランス新法では
フリーランスの労働環境を整備していく
という役割も持っています。
配慮すべき事項のひとつとしては、
フリーランスからの申し出に応じて
出産や育児、介護と業務との両立への配慮
が挙げられます。
委託事業者が、フリーランスに対して
6か月以上にわたって
継続的な業務委託をする場合、
妊娠・出産・育児・介護と両立しつつ
業務に従事することができるよう必要な配慮
をしなければなりません。
適用対象の取引は、継続的業務委託であるため、
スポット対応や飛び込み対応といった
一度限りの契約の場合は
この義務事項の適用対象外となります。
⑥ハラスメント対策の体制整備
⑤と同様に、
継続的業務委託を対象として
フリーランスと取引をする場合、
委託事業者はその言動によって
ハラスメント状況となることがないように
フリーランスからの相談に応じて
適切に対応するために必要な措置
を講じなければなりません。
こうした
相談を受けたことなどを理由とした契約解除
そのほかの不利益な取り扱いは認められない
ことは、言うまでもありません。
<公正取引委員会:ハラスメント対策に係る体制整備義務>
6カ月以上の継続的業務委託契約
において
契約期間途中の契約解除or不更新とする場合、
委託事業者は
原則、契約解除or不更新の30日以上前には
予告をしなければなりません。
また、フリーランスから
契約解除の理由の開示を求められた場合には、
遅滞なくこれを開示しなければなりません。
<公正取引委員会:中途解約等の事前予告・理由開示義務>
ここまでご紹介した7つの義務項目について
さらに注意したいのは、
委託事業者が満たす要件によって
これら項目の
どれが適用義務となるのかが異なる
という点です。
委託事業者の適用義務パターンをまとめると、
次のとおりとなります。
委託事業者の皆さまは、
ご自身または自社が
どのパターンに適用されるか、
確認してみてください。
※政府も
守るべき義務パターンをチャート化して
紹介しています。
⇒公正取引委員会案内サイト
【契約書作成における対応】
11月からルールスタートとなるフリーランス新法
に沿って、
委託事業者とフリーランス間
で取り交わされている
業務委託契約書を修正するという前提で
契約書上の注意点をまとめてみました。
参考にしていただけるとうれしいです。
<契約シチュエーション>
★法人甲がフリーランス乙に
WEBサイトの更新、保守運用業務を継続的に委託
★契約期間は今年1月1日から1年間、自動更新あり
<取引条件の明示>
この条項は
取引条件が詳細に記載されていない
のでNGです。
取引条件は書面などで明示する必要があるため、
甲は、
この条項に取引条件詳細を明記するか、
条件を明らかにした書面などを都度発行
する必要があります。
ちなみに、重要な取引条件のひとつに
報酬額が挙げられますが、
委託業務に見合う対価ではない場合、
禁止行為のひとつである買いたたき
に該当するおそれがあることにも
気を付けたいところです。
<報酬の支払期日>
報酬は
成果物の受領or役務提供を受けた日から
60日以内
に支払わなければなりませんが、
この条項ではその
60日を超えてしまうリスクが高い
ため、NGです。
このケースの場合の支払日はたとえば
請求書受領月の月末払いなどに修正
することで、
適用義務を遵守できるでしょう。
ちなみに第2項については、
乙の請求書未発行といったミスの責任も
考慮されていると想定できますが、
時効消滅が未完成であるにも関わらず、
報酬ゼロというのは、
禁止行為のひとつ、報酬の減額
に該当するおそれがありますので、
第2項の削除を検討すべきと考えます。
※時効の消滅や期間については
以前のコラムで詳しくご紹介しています。
⇒【民法改正】消滅時効の期間
⇒【民法改正】時効のコントロール(?)
まず、乙に求めている機器の購入ですが、
セキュリティ対策などの正当な理由
に基づくのではなく、
販売促進や売買差益などの
単なる委託事業者側の利益目的であれば、
禁止行為のひとつである購入・利用強制
に該当するおそれがあります。
また、同様に第2項に記載される
特定の会の加入と会費の支払いについても
加入しなければならない正当な理由が
記載されていないためNGです。
加入を任意規定にするとしても、
業務委託契約における必須条件ではなく、
フリーランスに対する事実上の圧力になる
とも受け取られかねません。
こうした正当な理由が記載できない場合、
禁止行為のひとつ、
不当な経済上の利益の提供要請
に該当しますので、
両項とも削除を検討すべきです。
仮に記載の必要性が強いとすれば、
その理由も踏まえて十分しましょう。
法人甲の都合による委託キャンセル
においては、
条項自体がそもそも有効であるか
に注目したいところです。
仮に有効であったとして、
この条項を根拠に甲が
乙による成果物引渡しを拒否した場合、
禁止行為のひとつである受領拒否
に該当するため、
撤回条件は相当な対価の支払いなどに整備
すべきと考えます。
事後的な注文内容の変更や返品についても
やはり一方的で法的有効性が疑わしく、
禁止行為である
不当な給付内容の変更・やり直し、返品
に該当します。
この場合は、
フリーランスの事前了承
業務量に応じて
相当対価などの条件付委託内容変更
などを定め、
返品の記載は削除しましょう。
甲が更新を拒絶する場合は
期間満了30日前の予告が必要
であるため、
期間満了30日前と修正しましょう。
<中途解約などにおける事前予告&理由の明示>
こちらも30日前の事前解約予告が必要です。
また、
乙から解約理由の問い合わせがあった場合は、
甲はその理由を開示する必要がある
ため、その旨記載の修正、追記をしましょう。
<「やむを得ない事由」による中途解約>
30日前の解約事前予告は
やむを得ない事由がある場合は予告不要
となります。
ここで認められる
やむを得ない事由とは、
具体的に次のようなものを指します。
<知的財産権の帰属>
禁止行為の解釈については
下請法などの法令との関係性もありますが
成果物の知的財産権の帰属がどちらになるのか
また買いたたきの懸念も予想されます。
もし、
知的財産権が甲に帰属することが
当然に報酬に含まれる
と主張するのであれば、
その旨の定めをおく必要があります。
<労働環境の配慮&ハラスメント対応整備>
特定業務委託事業者は
育児介護への両立配慮
ハラスメント相談に対する体制整備
が義務付けられます。
あえて契約書に明記するかは
契約当事者で検討すべきですが、
フリーランスからの事前相談に備えて
契約書に事前に明記するのは
非常にスマートな印象を持たれるでしょう。
【フリーランスの一層の成長と発展】
フリーランス新法は、昨年春に可決、
今年の11月からいよいよルール適用される
とても新しい法律で、
フリーランスの安定した業務遂行、
また正当な扱いを守るために、
委託事業者に対して
さまざまな遵守事項が設けられている
グランドルールです。
今後さらなる詳細ルールが発表予定ですので、
引き続き状況を注視していきたいところです。
フリーランスは今後も増えていくことでしょう。
この法律の成立をきっかけに
フリーランスのトラブル・紛争の防止、
多様な働きかたが促進されるものと考えられます。
契約当事者となる
委託事業者、そしてフリーランスの皆さまは
今からでも、
契約書内容を十分に精査してみてください
WINDS行政書士事務所は、
業務委託契約書をはじめとするさまざまな
契約書類の作成、リーガルチェック
といったサポートをおこなっております。
最新法令ルールや
既存契約書類の見直しポイントに迷う場合、
法務のプロフェッショナルに是非、ご相談ください。