コラム

【実務家目線で振り返ってみた】行政書士試験

2024.12.11[行政書士・業務]





【今年も行政書士試験が実施されました!】

こんにちは。西新宿の行政書士、田中良秋です。
先月、
今年度の行政書士試験が無事に終了しました。
受験生や受験サポートをされてきた
すべての皆さま。
本当に本当に、お疲れさまでした。

私もかつて、
行政書士となるために通り抜けてきた道ですが、
お客さまをサポートする立場となった現在、
ふと振り返ると、
受験した当時とはまた違った感覚で
科目やテーマを見つめる機会に恵まれています。

法務のプロフェッショナルとなった
今だからこそ実感する、
試験科目の大切さ
また私が体験している実務上の効果
についても振り返ってみたいと思います。


<日本行政書士会連合会:行政書士制度


【行政書士試験はこんな試験】

過去に私も受験した行政書士試験とは、
毎年11月第2日曜に開催される国家試験で
対象の科目は
5カテゴリーの法律
(基礎法学、憲法、行政法、民法、商法)


行政書士業務に関する必要基礎知識
の6科目となります。
※会社法は商法に含まれるもので、
 対象者が会社であるかどうかで
 適用法律が商法と会社法に分かれます。


3時間で全問60問を解くもので、
合格基準点
300点の60%となる180点
そのうち
行政書士業務に関する必要基礎知識
で必ず24点得点していなければならない

という厳しい条件が課されています。

行政書士試験センター:合否判定基準


気になる合格率は、
近年およそ10%~12%を前後しており、
10人から12人のうち1人が合格
というレベルになっていますが、
かつては10%をきったこともあるほどです。
行政書士試験センター:試験概要

資格指導校、
また毎年のたくさんの受験生の皆さまが
感じておられるかと思いますが、
私自身も、
生やさしい験ではない
と今でも思っています。
今年度の試験問題に目を通しましたが、
昔からの難易度は健在
といった印象を持ちました。




【難関!でもメリットあるこの試験】

ここまでですと、
厳しい試験という印象
を持たれるかもしれませんが、
私は、
この試験を初めて知ったときから
とても有意義で価値のあるものだと
感じています。
具体的な点として、
次のふたつを挙げたいと思います。

①誰にも平等のチャンス
行政書士試験は、
出題テーマや試験内容が非常にマニアック
ですので、
簡単な試験ではありませんが、
年齢、学歴、国籍限定なく、誰でも受験OK
と門戸が広いです。
これまでは8歳、昨年度は13歳
の最年少合格者

を輩出しているとのことで
私も非常に驚きました。
また、
絶対評価として180点の合格基準点
で、受験生は平等に評価されます。
実際、
試験の難易度や得点率で
記述式問題の評価得点が左右される
という噂がありますが、
直近10年でそのような動きは見られません。


②実務やキャリアに直結する試験内容
受験生や関係者試験科目
全国の資格予備校や通信講座でも
対策されていることが知られていますが、
実務をおこなっていく場面でも
思い出さざるを得ない科目や出題テーマ
は必ずあり、
勉強した知識が
すぐに実務家としての武器になる

ことは、間違いありません。
具体的な科目や出題テーマ
をピックアップすると
きりがないほど多いですが、
私自身、
毎年そうした場面が多くなっている
と感じる今日この頃です。

独立をされない場合であっても、
合格で培った法務知識を活かして
企業法務の担当に就かれる方も多いです。




【現役行政書士が実務で役立ててる!試験科目】

ネットやSNSでの情報でよく、
 別に満点得点する必要はない
 この科目は捨てていい
 ●●ランクの出題科目だけ徹底マーク

といった意見を目にします。
これに対しては、
あくまで試験合格対策としては
問題はないのですが、
今、実務家として、私は、

捨て問や捨て科目など一切ない

のではないかと、感じます。

日々の業務の中でそう感じるエピソードを
試験科目別にご紹介したいと思います。
行政書士という職業や行政書士試験に
ご興味のある方、
合格を目指していらっしゃる方にとって
少しでも参考にしていただけると、うれしいです。

1⃣基礎法学
この科目は、
〇〇法という特定をしない、
法学全般の広い基礎知識が求められます。
そのため、
刑法や民事訴訟法、行政書士法など
出題範囲が広いと言われているなか
出題数は60問のうちたった2問だけ
となっています。 

私が関わってきた実務では、
お客さまのサポートで
法律や公募要項に記載される
法律独特の用語や言い回しの読解

そして、
お客さま対応プラン提示のために
裁判内外での紛争処理の確認

なによりも
行政書士としての立場の理解
などに役立っています。

2⃣憲法
言わずと知れた、
国民の権利や自由を守る法規国のトップ法規です。
国民の権利としての人権
国の統治スキーム
の2カテゴリーが出題範囲となっています。

国のさまざまな制度の根幹となる法律
として、たとえば、
LGBT制度における諸手続き
契約書などの作成

外国人在留特別許可手続き
難民申請

などのサポートにおいて、
この法律の知識が非常に役立っています。

また、
お客さまとの商談などの場面で
国内のさまざまな選挙が話題にあがる
ことも多く、
当事務所の業務やお客さまへの影響
を常に考える指標のひとつ
にもなっています。

3⃣行政法
行政法総論、行政手続法、行政不服審査法
行政事件訴訟法、国家賠償法、地方自治法
といった、
行政(行政権)に関するすべての法令で、
行政書士試験での出題が1番多いです。
情報公開法などの他法との横断知識も問われ、
行政書士として必要不可欠な知識が求められます。

私たち行政書士は、
各分野の許認可申請の代行を独占業務として
お客さまと行政のパイプの役割
を果たしているなか、
諸官庁の組織や手続きの仕組み
この科目から学べて良かったと思っています。

なかでも、
VISAや補助金、風俗営業などの各申請
における
各行政機関の処分性の知識、
特定行政書士だけが代行を許される、
異議申立て、審査請求などの行政訴訟

の知識は、
私がお客さまサポートを進めていくうえで、
欠かせないものとなっています。
※当事務所代表は
 特定行政書士資格を保有しています。
 
こちらのコラム詳しくご紹介しています。

4⃣民法
個人契約などの個別取引や財産
身分関係について定めている法律
で、
財産法と家族法の2カテゴリーに分けられます。

人と人、人と企業、企業と企業間での
契約書の作成、リーガルチェック
において、
この法律で規定されている
時効、契約不適合責任、委託や請負
といったさまざまな法ルールが詰まっており、
私もこれら知識をフル回転させて
サポート対応させていただいています。
※民法規定ルールに基づいた
 さまざまな法ルールは
 以前のコラムで幅広くご紹介しています。


5⃣商法(&会社法)
4⃣の民法は
個別取引が対象となっていますが、
この法律では、
商売を生業とする事業者間で適用され
日々反復継続される定型取引が対象

となります。
さらに商売対象が会社の場合は、
商法と会社法両方の法ルールに則る
必要があります。

民法にはない商行為ルールは
事業者の皆さまの事業計画書策定
約款、契約書作成

といったサポートにおいて
活用する知識ばかりです。
また、
法人形態や機関設計のルールは
法人設立のご相談や定款認証業務
において欠かせません。
※商行為や会社機関設計については
 以前のコラムで幅広くご紹介しています。


6⃣行政書士業務に関する必要基礎知識
1⃣から5⃣までの5つの法令科目以外で、
行政書士が身に付けておくべき知識が対象で、
ほかの法律国家資格にはない科目です。
名称だけでも知識の範囲が広いことが
十分に理解できるのではないでしょうか。
私が受験したときは、
一般知識等という呼び方で知られていました。
14問中6問=24点得点していなければ、
たとえ合格基準点をクリアしていても
合格は認められないという
足切り科目として知られており、
司法試験や司法書士、社労士試験
の合格者さまのなかでも
この科目で不合格となった方が多い
ことは、有名です。

この科目で出題される
政治経済社会、IT・個人情報保護知識は、
お客さまとの商談において提案する対応策
の裏付けとなるだけでなく、
お客さまご自身が関心を寄せている時事
においても一緒にお話をさせていただくことで
お客さまのニーズをうかがえるだけでなく、
毎年めまぐるしく変わる国の最新許認可制度
を確認するキーナレッジとなっています。




【行政と皆さまの架け橋のための試験】

今回のコラムでは、自分自身の体験談から
行政書士試験の内容を
実体験もまじえながら振り返ってみました。
行政書士についてあまりなじみがない方
にとっては、
行政書士の業務や社会の関わり方
を少しでも知っていただけたでしょうか。

許認可の代行や権利義務関係の書面作成
の専門家である私たち行政書士は、
事業者さまの事業サポート、
そして行政と皆さまをつなぐ存在として、
大きな責任をもって日々業務にあたっています。
行政書士試験は、
そんな存在になって責任を果たせるか
が試される試験だと思います。

そういった意味では、
受験生の皆さまにとっても、
試験合格のその先にある、
実務において大切な試験科目や出題テーマ
を意識していただけるものであればうれしいです。